脊髄損傷では「損傷の程度や部位」によって症状は多岐に渡り、その中でも「手や指に強い麻痺が現れるのが中心性脊髄損傷」です。
当記事では中心性脊髄損傷における「手や指に麻痺が強い理由」、「特徴的な症状と生活の悩み」、「運動のポイント」についてご紹介していきます。
記事内でお伝えしている症状や生活の悩みは、麻痺の影響だけでなく、生活での癖や日々の過ごし方によって変わってくるため、今は症状がなくても今後、現れる可能性があのでチェックしてみてください。
目次
- 脊髄の中心性損傷とは
−脊髄の内部構造とポイント
−手や指に麻痺が強い理由
- 中心性脊髄損傷の特徴と回復過程
−一般的な特徴
−麻痺の回復過程 - 生活の悩みを解決する運動のポイント
−身体まひが及ぼす影響と生活の悩み
−悩みを解決する5つの運動ポイント
- まとめ
この記事は、障害者・車椅子ユーザーのリハビリやトレーニング経験を多く持つ、理学療法士やアスレチックトレーナーが書いています。
脊髄の中心性損傷とは
まずは背骨や脊髄の構造と脊髄損傷について簡単にお伝えしていきます。
画像は背骨、椎間板、脊髄神経を表したイメージ図です。
このように脊髄は背骨に守られ、首から尾てい骨まで伸びている神経で、太さは約1cm前後と言われています。
脊髄損傷とはこの脊髄神経がダメージを受ける事で脳と手足の伝達が遮断され、身体に様々な症状が現れる障害です。
中心性損傷では「1cm程度の脊髄神経の中心部」にダメージが多きく生じた状態」を示します。
それでは、脊髄神経を拡大して中心性損傷について詳しく説明していきます。
画像は脊髄神経を横に切断したイメージ画像です。
それぞれ赤(頸髄)、青(胸髄)、緑(腰髄)、黄(仙髄)でハイライトした部分は身体の支配領域を示しています。
特徴は脊髄の中心から外側(赤から黄)に向かって首、胸、腰と支配領域が異なる構造をしている事です。
脊髄にはまだまだ詳細な領域があるのですが、今回はこの「中心から外に向かって身体を支配している構造に違いがある」というポイントを抑えておいてください。
今度は、先ほどの画像に脊髄の中心がダメージを受けた状態を表しました。
画像のように中心性損傷とは「脊髄の中心」がダメージを受け、外側の脊髄はダメージが少ない状態です。
「手や指の麻痺が強く現れる理由」にはこの脊髄の特徴的な構造が関係しているのです。
このように、わずか1cmの脊髄ですがダメージの広がり具合によって症状が大きく異なってきます。
中心性脊髄損傷の特徴と麻痺の回復過程
中心性脊髄損傷では手に強い麻痺が残る以外にも以下ような特徴的な症状が現れます。
- 足より手に強い麻痺
- 立つ、歩くことができる場合も多い
- 触覚や痛覚はある程度感じる
- 排尿感覚はあるが自力で出す力が弱まる
- 手指が曲がったまま伸びにくい
- 背骨の骨折を伴わない場合が多い
- ケガの原因は頸椎の過伸展(上を向く)が多い
- 高齢者では転倒などの軽度な損傷でも起こりやすい
これらが一般的な症状と言われています。
上記の症状が当てはまる場合は脊髄の中心性損傷かもしれません。
- ケガ直後は急激な麻痺によって全身の自由が奪われ、手足ともに動かす事が難しい
- 時間の経過と共にまず、足の機能が回復してきます
- 次いで膀胱機能が改善し
- そして腕の順で回復が見られてきます
- 指の細かな運動や素早い曲げ伸ばしなどは最後まで残る傾向にあります
このように中心性脊髄損傷では徐々に足から麻痺が回復していき早期から立つ、歩く事が可能な場合も多い特徴があります。
しかし上半身の麻痺は「杖を持って歩く」「立ってバランスをとる」際にも大きな影響が出る為、必ずしもスムーズに歩けるわけではないのです。
ここまでで、中心性脊髄損傷では「なぜ手の麻痺が強いのか」そして、「症状や特徴」について少しご理解いただけたかと思います。
次に「上半身の麻痺が強い事で起こる身体への影響」や「生活の悩み」を踏まえながらリハビリ、自主トレのポイントを紹介していきます。
生活の悩みを解決する運動のポイント
- 首から肩にかけて筋肉の緊張が強い
- 背骨や胸郭、肩甲骨の柔軟性が低下しやすい
- 大胸筋や脇腹の痙性が強い
- 前腕や手首、指の筋肉、腱が硬くなる
- 腹圧が弱い
麻痺が及ぼすこれらの影響から以下のような生活での不自由や悩みが出てきます。
【生活の悩み、影響】
- 寝返りや起き上がりが難しくなる
- 肩甲骨の動きが悪く腕を大きく動かせない、痛みが出る
- 物が握りにくい、指を開きにくい
- 服の着脱が困難
- 巻き型になり、腕が外向きに開きにくくなる
- 手のしびれが強くなる
- 慢性的な肩こり
- 肋骨周りが硬く、息が大きく吸えない
- 咳やくしゃみが強く出せない
- 車椅子を漕ぐことが難しい
- 掛け布団を直せない(寝返りをしても布団がついてこない)
- 腕が上がらないため、食事を口元まで運べない
- 排尿感覚や出せる力はあるがトレイ動作ができず、オムツやカテーテルを使っている
いかかでしょうか。
まだまだ多くの悩みがあると思いますが、皆さんにも当てはまる項目があったと思います。
これらの項目は麻痺の影響(筋力低下など)でできなくなる場合と柔軟性の低下(運動不足)で起こる場合があります。
特に柔軟性の低下は日々のストレッチや運動で関節を硬くしないことで予防が可能なため、これからお伝えする運動を実践してみてください。
ポイント1【首から肩甲骨のストレッチ】
最も筋緊張が高くなりやすい部分で、ストレッチを怠ると上肢の可動域を低下させ、様々な生活動作が困難になるばかりか、筋肉の緊張が血管や神経を圧迫する事で手のしびれを助長してしまいます。
ポイント2【肩の痛みを取り除く、可動域を低下させない】
最低限、肘付きのうつ伏せで支えられる筋力と肩の疼痛を抑える事がポイントです。
うつ伏せは肩や肩甲骨で体を支える力や腹部、下肢のストレッチに最適な姿勢で、肘付きから手つき、四つ這い姿勢など派生できる運動が多くあります。
しかし、肩の痛みや可動域が低下してるとこの姿勢が取れず、効率的な運動が一つできなくなってしまうのです。
ポイント3【胸郭(胸・肋骨)周辺の柔軟性をUP】
体幹の痙性によって肋骨周辺の筋緊張が高くなると、呼吸が浅くなったり、手を高くあげることを制限してしまいます。そのため、胸や手を広げて体幹や胸のストレッチと呼吸を合わせて行いましょう。
ポイント4【背骨をひねる・伸ばす・曲げる】
体幹の回旋や背中の柔軟性は寝返りや起き上がりなど生活動作に不可欠ですが、寝ている時間や車いす生活が長くなると、体幹を回旋させる機会が激減し柔軟性が容易に低下してしまいます。
ポイント5【腹部から内ももの柔軟性UP】
腹部と内もも(骨盤周辺)の筋肉が硬い場合、歩く時に上半身が引っ張られ、ロボットにような歩きになってしまいます。
運動やリハビリを進めていく際は、まずこれらの5つのポイントから改善していく事で、徐々に運動の強度やメニューを広げていく事に繋がります。
中心性脊髄損傷では立つ、歩くことができる場合も多いため、そこに注力する傾向にありますが、食事やトイレ、着替えなど生活動作に直結するのは上半身の動きが多いです。
そのため、下半身の運動以上に上半身の運動やストレッチに注力することで、生活動作を改善していく手助けになります。
特に柔軟性が低下しやすい肩甲骨や背骨などを積極的に運動していく事をお勧めします。
背骨や肩甲骨のストレッチ方法はこちらを参考にしてみてください。
フォームローラを使ったストレッチ方法
まとめ
今回は頸髄損傷の中でも中心性損傷という病態についてお伝えしました。
中心性脊髄損傷は手の麻痺が強いことで、立つことができてもバランスが不安定であったり、杖が持てないことで歩行が安定しない事があります。
また、生活動作が完全に自立できない事も多く、ヘルパーや家族の介護が必要な場合もあります。
そんな生活の悩みを改善していくには、まずは上半身や体幹の運動に力を入れて取り組むことが近道ですので、「悩みを解決する5つの運動ポイント」を参考に運動を行なってみてください。