脊髄損傷後の痙縮(痙性)は運動でのコントロールが有効

今回のユニバーサルトレーニングセンターのお話は
脊髄損傷後の痙縮(痙性)で悩んでいる人がすべきこととは?
に関してです。

その答えはズバリ運動なのですが、
それを説明する前に少し痙縮とは何かについてお話したいと思います。

痙縮(痙性)とは?

痙縮(けいしゅく:痙性と呼ばれる事もあります)とは、

脊髄損傷や脳の病気などによって上位運動神経が障害された時におこる不随意の運動麻痺

とされています。

簡単に説明すると、脳からの信号がターゲットの筋肉にいかず筋肉がリラックスできなくなってしまう状態です。

この記事をお読みの方には痙縮に悩ませられている脊髄損傷者も多いのではないのでしょうか?
脊髄損傷の約7割の人が痙縮の症状があるとされています。

痙縮の強さには個人差がありコントロールするに苦労させている方も多いかと思います。
強すぎる痙縮は時には頭を悩ませるものとなりますが、
実は痙縮にはメリットもあるのです。

程よい痙縮のメリットとは?

  1. 痙縮を利用することによって立位や移乗動作を簡単にする
  2. 血流量をあげ、血行をよくする
  3. 深部静脈血栓の予防になる
  4. 筋肉量を維持できる
  5. 褥瘡(じょくそう)の予防になる

やはりコントロールが難しいとはいえ、筋収縮がしっかり起こるので、筋肉が全く使われないよりは身体にとっていい状態となります。

しかし、同時に強すぎる痙縮の場合は様々なデメリットも生じてしまいます。

強すぎる痙縮のデメリット

  1. 運動機能制限
  2. 拘縮(こうしゅく)
  3. 姿勢の悪化
  4. 痛み
  5. 衛生上の問題

などなど様々な問題を生じる事もありえます。
痙縮によっては左右差があったり、強すぎたりすることで、姿勢を崩す原因となったり、暴れる過ぎる事もあるので、車椅子に乗っているだけでも大変だったりする事もあります。

しかし、先ほどのメリットでもあげたように、痙縮は扱い方次第では良くも悪くもなります。

その為、痙縮と上手く付き合いながら生活することがとても大切なのです。

痙縮の評価方法

  • 痙縮の評価には一般的にアシュワーススケール(Ashworth Scale)
  • モディファイドアッシュワーススケール(Modified Ashworth Scale)
    が使われております。

また筋電図で測る評価法もありますが、どれもどの程度だからどういった治療法が推奨されるといった評価には至っておりません。

その為、痙縮の強さを見極めた後の対応が非常に重要になるのですが、それをしっかりと結びつけている記事を見つけたのでご紹介いたします。

脊髄損傷後の痙縮

この記事の良いところはなんと言っても痙縮の強さによって治療法までしっかり支持されているチャートが作られているというところです。
この論文では痙縮の程度を下記の6段階に分けています。

  1. 軽度〜中程度の局所、部分的、全体的に現れる痙縮
  2. 中程度の局所、部分的、全体的に現れる痙縮
  3. 中度〜重度の局所的に現れる痙縮
  4. 中度〜重度の部分的、主に下肢に現れる痙縮
  5. 重度〜最重度の局所に現れる痙縮
  6. 重度〜最重度の部分的、全体的に現れる痙縮

そして下記の図のように6段階の程度によってそれぞれの処置、治療方法も表記しております。

痙縮の強さの各段階に合わせてそれぞれの処置、治療方法が書かれております。
ここで注目してもらいたいのが赤の四角で囲んでいる所で、どのステージにおいても
最初は積極的な運動と理学療法が一番重要な治療法であるということです。

理学療法は皆さん行った事があるかと思います。
ストレッチや物理療法(電気治療や温熱療法)などで痙縮を軽減させますよね。

しかし、積極的な運動は行っている人は少ないのではないのでしょうか?

ここで良くある質問として

運動で筋力をつけたらむしろ痙縮が増加するのではないのか?


と聞かれる事もあるのですが、これはあまり根拠がなく
むしろ痙縮が安定してくるとする研究結果の方が多いのです。

なので積極的に運動することがまずは一番重要になります。

積極的な運動というのは全身運動であったり、麻痺部を動かす運動になります。

次の手段として「薬」や専門的な「ボツリヌス療法(ボトックス)」「バクロフェン療法」「装具」でのアプローチ。
それでも改善が見れない場合は手術という段階になります。
もちろんその際は整形外科の先生と相談することが必要ですね。

でも先に手術という選択肢にならないために段階的にアプローチする重要なのです。

まずはしっかり体を動かすことで痙縮をコントロールし、痙縮と良い関係性を築くことを目指しましょう。

参考文献
  1. Rekand, T, et al. “Spasticity Following Spinal Cord Injury.” Tidsskr Nor Laegeforen, 30 Apr. 2012, tidsskriftet.no/en/2012/04/spasticity-following-spinal-cord-injury.