【車椅子ユーザー】周波数の違いで異なるEMSの効果と使い方とは

脊髄損傷や脳卒中によって身体麻痺が残り、自力では運動が難しい麻痺筋に対し、筋トレ手段として電気筋肉刺激(EMS)を使う方法があります。

テレビCMなどでもお馴染みとなったEMSですが、多くの種類が販売されており、「効果の違い」や「どれを選んだらいいかわからない」と言った疑問をお持ちの方も多いと思います。

そこで当記事ではEMSについて「種類の違い」や車椅子ユーザー(脊髄損傷や脳卒中)の方が使用する場合を例に「効果的な使用方法」についてご説明していきます。

*EMSとは
EMS=Electrical(電気的) Muscle(筋肉) Stimulation(刺激)の頭文字をとった言葉で「電気を送ることで筋肉を刺激し動かす」機器の総称です。

目次

  • 周波数と深達度によるEMSの違い
    −低周波
    −中周波
    −高周波
  • 車椅子ユーザーにおすすめのEMSと使用方法
    −麻痺筋の筋トレにおすすめのEMS
    −脊髄損傷・脳卒中への使用方法
  • まとめ

この記事は、理学療法士やアスレチックトレーナーとして障害者、車椅子ユーザーのリハビリ、トレーニング経験を多く持つ、障害者専門のパーソナルトレーナーが書いています。

周波数と深達度によるEMSの違い

EMSはどれも同じものと思われる方が多いですが、大きく低周波・中周波・高周波に分ける事ができます。
これらは電気の種類(波)や深度(身体にどれくらい深く電気が伝わるか)の違いがあり、この違いについて説明していきます。

 

低周波の特徴

低周波とは0.1Hz~1,000Hzの周波数を示し、一般的に販売されている多くのEMSは低周波が主流です。
周波の単位であるHz(ヘルツ)とは一秒間に何回波が起こっているかを示しています。

例えばMax1,000Hzまで出力できる低周波機器の場合、一秒間に1000回の電気刺激が起こっていることになります。

【低周波の特徴】

  • 皮膚での抵抗が強く、ピリピリと痛みを感じる
  • 電気が深部までとどず、身体の浅い部分しか刺激できない
  • 脂肪が溜まっている部分では筋肉まで電気が到達しにくい
  • インナーマッスルを刺激する事が難しい
  • 筋肉運動には最適な周波数であり、大きな筋肉を全体的に刺激したい場合におすすめ

一秒間に1000回と聞くと、沢山の刺激が起こっているように思いますが、実は低周波機器で作り出せる周波数は非常に少ない部類なのです。

 

中周波(干渉波)の特徴

干渉波とも呼ばれ、異なる周波数の電気を同時に流し、ぶつかり合わせて干渉させる事で筋肉を刺激します。

【中周波の特徴】

  • 皮膚抵抗が少なくなり、ピリピリ感が減少する
  • 低周波のように広範囲に刺激できず、干渉している部分のみでピンポイントの刺激となる
  • 皮膚から2~3cmの深部まで刺激できる
  • 脂肪が蓄積している腹部ではインナーマッスルまで効果が及びにくい
  • 干渉させるために複数のパットが必要

 

高周波の特徴

高周波は10,000Hz以上の機器で、一秒間に10,000回以上の電気刺激が起こっているものになります。

【特徴】

  • 波が細かいので皮膚抵抗が少なく、痛みも感じない
  • 皮膚から約15cm程度の所まで刺激が届く
  • 深部まで刺激が届くため、腹部など脂肪が厚い部分でもインナーマッスルを刺激する事ができる

*深部まで到達する高周波ですが、波が細く刺激できる範囲は小さい特徴があります。そのため、高周波だけでは筋肉を効率的に刺激する事ができないので、低周波と組み合わせて作られている製品が多いです。

 

車椅子ユーザーにおすすめのEMSと使用方法

画像の深達度イメージと合わせて、周波数の違いをご理解いただけたでしょうか?
それらを踏まえて、車椅子ユーザーにおすすめの使用方法をご説明いていきます。

 

麻痺筋の筋トレにおすすめのEMS

ずばり「低周波+高周波の複合周波」によって刺激するEMSがおすすめです。

これまで様々なEMS機器を車椅子ユーザーのトレーニングで使用してきましたが、麻痺した筋肉を刺激するには低周波と高周波を出せる機器が最も効果的であると感じました。
高周波による深部までの刺激と低周波による広範囲の刺激が合わさる事で、麻痺した筋肉や脂肪が蓄積しやすい腹部でも刺激が可能な事が多かったからです。

SIXPADや少し前に流行ったアブトロニックなどはEMS機器として有名ですが、低周波のため使用者によっては効果を十分に見込めない場合もあります。
また、低周波は痛みが強い場合があり、感覚が敏感な方や電気の痛みが苦手な方は出力を強める事ができないデメリットがあります。

 

脊髄損傷・脳卒中におすすめの使用方法

【脊髄損傷】

  • 麻痺部全域:筋量の維持、向上
  • お尻:筋肉や血管を刺激して血流を改善、筋量を向上させ褥瘡を予防
  • 腹部:インナーマッスルを刺激して脂肪燃焼
  • ふくらはぎ:むくみを改善
  • 痙性の減少:痙性が強い部分と反対側の筋肉を刺激する事で痙性が減少する

【脳卒中】

  • 麻痺側の肩関節:脱臼防止
  • 肩甲骨周囲:肩甲骨を安定性させ、手の動きをサポート
  • 足首(すね):歩行時の足首の垂れ下がりを防止
  • 痙性の減少:痙性が強い筋肉と反対側の筋肉を刺激する事で痙性が減少する

【注意点】

  • 長時間の刺激は避ける(一部位で20分以内)
  • 皮膚が赤くなる事があるため、使い始めは皮膚の状態をチェックしてください
  • 電気を通すパットが劣化、ゴミが溜まっていると通電しにくい事がある

【禁止事項】

  • ペースメーカー使用者
  • 心疾患を持っている方
  • 静脈血栓症が認められる方

など、その他の禁止項目は各メーカーの説明書をご覧ください。

脊髄損傷や脳卒中では神経麻痺によって徐々に筋量が減少していってしまいます。これを防ぐためにも早期から、電気刺激を利用して筋肉を刺激する事が重要であり、一定の効果も見込まれています。

まとめ

  • EMS購入時は周波数の違いに着目し目的にあった機器の選択が重要
  • 麻痺筋の筋トレには低周波+高周波がおすすめ
  • 早期から使用する事で筋量の維持・向上が可能
  • 脊髄損傷や脳卒中などへの使用は研究でも効果があり推奨されている

電気刺激での運動はリハビリの合間やトレーニングのサポートとして使用する事で、その効果を最大限に発揮する事ができます。特に自主トレでは鍛えにくい麻痺部(臀部や腹部、脚など)は積極的に刺激する事をおすすめします。

*麻痺部への刺激ではすでに筋力低下が進行している場合、反応が全くない事もあります。しかしながら、繰り返し刺激し続ける事で徐々に変化してくる事もあるため、反応がないからと諦めず根気強く刺激してみてください。

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【参考文献】

  1. 市江雅芳,リハビリテーションにおける機能的電気刺激,山梨医大誌13(2),41~52,1998