脊髄損傷治療で研究が進められいる再生医療のまとめ

皆さんこんにちは。
最近様々な再生医療のニュースが世間を賑やかしていますよね。
慶応大学で始まるiPS細胞脊髄損傷治療や札幌医大の幹細胞治療など、
脊髄損傷者にとって朗報とも言えるニュースがどんどん増え、期待が高まっていることかと思います。

しかし一言で再生医療と言っても、様々な種類があり研究の進み具合、リスク、期待できる効果などはそれぞれ異なります。
馴染みのない方には十分に理解するには難しいですよね。

そこで、今回のユニバーサルトレーニングセンターの記事では
今ホットな話題の再生医療について触れていきます。

今回の記事を執筆するに当たって、様々なリサーチを行い、情報量が多くなってしまった為、2回の記事に分けてお届けします。
馴染みのない方でも分かり易いように、なるべく簡単にご説明していきますね。

再生医療の種類

まずは再生医療の種類から簡単に説明したいと思います。
現在研究が進んでいるのは大きく分けて3種類あります。

  1. 胚性幹細胞(Embryonic Stem Cells: ES細胞)
  2. 体性幹細胞 (Somatic Stem Cells)
    • 骨髄間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells: MSC)
    • 自家嗅粘膜細胞(Olfactory Ensheathing Cells: OEG)
  3. 人工多能性幹細胞(Induced Pluripotent Stem Cells: iPS細胞)

体性幹細胞の中にも種類は様々あり、現在脊髄損傷の治療に対して研究が活発に進められているのは、骨髄間葉系幹細胞と自家嗅粘膜細胞の2種類になります。

それぞれを見て頂いてお分かりになる通り、3つ種類の細胞にはどれも幹細胞という名前がついております。

幹細胞というのは簡単にいうと
自ら複製し、様々な細胞に分化する能力を持っている特別な細胞のことです。

自己複製能分化能という2つの特殊な能力を持っているのです。
そして、その能力を利用して傷ついた細胞、組織を治していくのが再生医療になるのです。

それでは次に各幹細胞の特徴を見ていきましょう!

胚性幹細胞(ES細胞)とは?

胚性幹細胞は一般的にES細胞と呼ばれています。
これは受精卵後の胚に含まれている幹細胞のことです。
胚から生物個体へと徐々に成長していくことになるのですが、ES細胞は全ての組織や細胞に分化するという特別な能力を持っています。

しかしながら、ES細胞を作るには多くの卵細胞、そして胚が必要となる為、
「治療のために生命を犠牲にして良いのか?」という倫理的に問題点が指摘されています。

その為、マウスなどの動物実験は進められていますが、臨床研究はあまり進められていません。

体性幹細胞とは?

体性幹細胞とは身体の様々な組織に存在しており、ある程度の分化能力をもつ細胞のことです。
ある程度の分化能力である為、ES細胞と比較すると分化能力は低くなってしまいますが、
この体性幹細胞のメリットとしては自らの体内の細胞を利用できるという点があります。
その為、倫理的な問題はパスしている為、臨床研究も進んでいます。

体性幹細胞には神経幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞など様々な種類がありますが、
脊髄損傷の再生医療に使われているのは間葉系幹細胞や自家嗅粘膜細胞が多いです。

骨髄間葉系幹細胞と治験を進めている病院

こちらの幹細胞は名前の通り、骨髄から細胞を摂取し、作製されます。
細胞移植を考えた際に、患者自身の細胞から摂取できる方法として安全性が確認されており、臨床での応用も進んでいます。

そしてこの骨髄間葉系幹細胞の臨床研究を行なっているのが札幌医科大学です。
詳しい研究内容は札幌医科大学のホームページを参照していただきたいのですが、
この研究は以下の流れで行われます。

  1. 局所麻酔下で骨髄液を採取
  2. 採取した骨髄液を細胞調製施設へ送る
  3. 特殊な機械によって細胞を分離、培養させ細胞製剤を作製する
  4. 細胞製剤を約1時間かけて静脈内に投与する

2016年10月に札幌医科大学での脊髄損傷に対する治験の募集は終了していますが、
学会で研究発表を見ている限りでは、かなりの効果が投与後の翌日からすぐに現れているのが印象的でした。
またこの治療のメリットとしては薬を静脈投与するので、手術とは違い身体への負担が低いことも挙げられます。

もちろんこれを打てば完璧に脊髄損傷が治るという訳ではありませんが、
全体的に治療後は治療前と比較して1ステージ上の状態まで回復していると言った具合でした。

例えば、上肢が上手く動かせない方が、動かせるようになったり。
トランスファーが出来ない方が、出来るようになったり。
立位がキリギリ出来る方が、歩行できるようになったり。と言った具合です。

これだけの成果が現れているのは驚くべき事であり、今後の慢性期への応用が一番期待される再生医療と言っても過言ではないでしょう。

自家嗅粘膜細胞と治験を進めている病院

自家嗅粘膜細胞の移植は先ほどの骨髄間葉系幹細胞と同様に、
脊髄損傷者に対しての効果が期待されている再生医療の一つです。

これは鼻の粘膜から摂取する細胞ですが、
鼻の中の嗅粘膜には一生涯神経再生が見られる嗅神経が存在します。
その作用を利用することで損傷した
神経の軸索伸張を促し、治療していくことになります。

自家嗅粘膜細胞の細胞移植は動物実験も多く行われており、脊髄損傷に対して研究が多くなされています。
しかしながら、多くの研究ではその効果が自然回復によるものなのか、積極的なリハビリの効果なのか、はたまた再生医療の効果なのかを断定する段階には至っていないようです。
これはどの再生医療にも言えることですが、今後の研究がさらに発展するのを期待するしかないですね。

そしてこの自家嗅粘膜細胞の移植に関して、研究を行っているのが、大阪大学医学部附属病院になります。
大阪大学の自家嗅粘膜移植の研究に関してはこちらをご覧ください。

ここでの研究に関しての嬉しい事は受傷後6ヶ月以上経過した人を対象としている事です。
多くの場合、受傷後すぐの脊髄に瘢痕組織ができる前の状態に細胞移植をするのですが、
この研究では6ヶ月以上経過している方が対象となるので、
慢性期と呼ばれる症状が固定した方々にとっての希望にもなりますね。
またこの治療は再生医療の中で唯一保険医療制度内で先進医療として実施されているというのも魅力的であります。

こちらも先ほどの骨髄間葉系幹細胞と同様に今後の研究成果に期待したいですね。

iPS細胞とは?

そして最後に皆さんが一番注目度が高いiPS細胞ですね。
身体の様々な細胞に成長する能力をもつ「万能細胞」と言われています。
皆さんご存知の通り、京都大学の山中伸弥教授が生成に成功し2012年にノーベル生理学 ・医学賞を受賞されました。

ES細胞では成し得なかった倫理的な問題はクリアしている上に、
先ほどの体性幹細胞以上に成長、分離能力もある為かなり期待されています。

そしてこのiPS細胞を使って脊髄損傷者に対して世界で初めて臨床研究を行うのが、慶應義塾大学病院になります。
研究の内容はこちらをご覧ください

iPS細胞の問題としてはコストとガン化のリスクが挙げられています。
iPS細胞は細胞の作成だけで数千万円がかかってしまうと言われており、
2014年に行われたiPS細胞による目の治療では、患者一人当たり約1億円かかったと報告されています。
その為、保険制度内で治療であったとしても高額になってしまう事は避けられないようです。

iPS細胞は作成までに時間がかかってしまう為、受傷してからすぐに自らの細胞を培養する事は難しいです。
その為、あらかじめストックしてあるiPS細胞を利用する為、拒絶反応が起こり、ガンになってしまう可能性が挙げられています。

動物実験では拒絶反応の問題はクリアしているようですが、人での研究はまだまだこれからということになります。

今回のiPS細胞での臨床研究は安全性が基準に適合されたため、承認されたので、これからの成果に期待です。

再生医療に関するまとめ

いかがでしたでしょうか?
今回ご紹介した各幹細胞による再生医療を表にしたので、是非参考にしてみてくだいさい。

ES細胞
(胚性幹細胞)
体性幹細胞iPS細胞
採取方法受精卵が細胞分裂した胚から作成される身体の中に存在する体細胞から作成される
倫理上の問題問題あり問題なし問題なし
特徴分化能力があり、増殖しやすい分化能力はあるが増殖はし難く、万能ではない分化能力、増殖能力共に高い
課題・問題点腫瘍化、ガン化の危険性あり細胞の増殖が限定的コストが高い
腫瘍化、ガン化の危険性あり

期待が高まる再生医療ですが、研究はまだまだ続きます。
慢性期での応用が期待されますが、我々はそれをただ待っているだけでなく、いつ再生医療の治療がスタートしても治療を受けられる準備をしなくてはなりません。
実際に上記の研究が進められている病院の治験を受けるにはかなり厳しい条件が設けられています。
次回の記事ではその点を含め今できる準備策などについても深掘りしていきますので、是非そちらもご期待していて下さい!

参考文献

    1. 九州大学 「脊髄損傷に対する細胞移植療法の現状と展望」福岡医誌 101(5):85―93, 2010
    2. 札幌医科大学付属病院 「再生医療治験のお知らせ」
    3. 大阪大学医学部付属病院 「脊髄損傷に対する自家嗅粘膜移植法 ―第1回公開説明会―」
    4. 厚生労働省「特集2 ヒトiPS細胞等を活用した再生医療・創薬の新たな展開」
    5. E-learn SCI: cell transplant therapy
    6. 国立障害者リハビリテーションセンター病院 「脊髄再生医療に関する解説」
    7. 慶應義塾大学医学部「亜急性期脊髄損傷に対する iPS 細胞由来神経前駆細胞を用いた再生医療」の臨床研究について(研究開始了承)
    8. 京都大学iPS細胞研究所 CiRA