腰痛は健常者でも多くの人が悩まされていますが、常時座りっぱなしの車椅子ユーザーにとっても深刻な問題です。
ある研究によると脊髄損傷者の49%は腰痛持ちとされています。1
ほぼ二人に一人の脊髄損傷者が悩ませられているのこの腰痛。
もしかするとこの記事を読んでいる方も腰痛の経験があるのではないでしょうか?
とは言え、多くの方々が腰痛に悩ませられていると言っても
車椅子ユーザーの腰痛についての情報はあまり多くありません。
また、健常者の腰痛と車椅子ユーザーの腰痛は少し考える視点を変える必要があります。
感覚麻痺があり、痛みの感覚が鈍い部分があるにも関わらず、腰痛を感じることだってあります。
今回は車椅子ユーザーの視点に立って、その腰痛の原因とその対策についてお話します。
車椅子ユーザーの腰痛の原因
車椅子ユーザーによくありがちな腰痛の原因としては
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長時間車椅子に乗っていることで生じる腰の痛み
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運動機能麻痺、体幹がコントロール出来ないことで生じる痛み
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車椅子生活による上肢筋肉の柔軟性の低下による痛み
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下肢筋肉の硬さによる痛み
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痙性による筋肉のアンバランスによる痛み
などが挙げられます。
一つ一つ原因をみていきましょう。
1. 長時間車椅子に乗っていることで生じる腰痛
単純に長時間座りっぱなしになっていることで腰へのストレスはかかってしまいます。
脊髄損傷者で考えると、一般的に車椅子生活になると、
下肢への荷重負荷が著しく減るため骨密度が大きく減少することは広く知られています。
なので全体的に骨密度は低下すると考えられがちではありますが、
実は腰椎の骨密度は車椅子生活に伴って減少するのではなく、若干上昇していくのです。2
これは単純に座位の時間が増えることによって腰椎への荷重負荷が増える事が原因です。
そして腰への負荷が増えると言うことは同時に正しい姿勢で体幹を固定できていないと、
簡単に腰痛の原因になってしまいます。
その為、環境が許すのであれば、車椅子から降りて、
寝転ぶ時間を少しでも作ってあげ、なるべく腰のストレスを減らしたいですね。
2. 運動機能麻痺、体幹がコントロール出来ないことで生じる腰痛
多くの車椅子ユーザーはその障害の為、体幹部の機能低下を伴っています。
その為、理想的な座位の姿勢をキープできず、
車椅子の背もたれにに寄りかかって座位姿勢を維持しなければなりません。
そして体幹部(主に腹横筋、腹直筋など)を上手に働かせる事ができないと、
身体の軸である背骨でバランスをとらなくてはならなくなってしまいます。
また同時に身体を起こす際、体幹部を固定できず、上肢の動かせるところだけで身体を起こしてしまうと、
どうしても身体の構造上反りが出やすい腰部を反ってしまい、腰にストレスをかけてしまいます。
これは機能低下がある以上避けて通れない問題ではありますが、
日々の姿勢や身体の使い方を改めることで腰部のストレスを最小限にすることも可能なのです。
3. 車椅子生活による上肢筋肉の柔軟性の低下による痛み
これは日常的に車椅子生活で行わなければならない移乗動作や車椅子駆動で生じる動作が上肢筋肉の柔軟性が低下させ、結果的に車椅子上での姿勢が悪くなってしまい腰痛、を生じてしまいます。
車椅子を漕ぐ、トランスファーをするといった動作を行なっていると、
どうしても身体の前部(大胸筋、前鋸筋など)の筋肉が発達してしまい、同時に硬くなることはよくあることです。
そうすると身体はどんどん丸まっていってしまいます。
そしていざ身体を起こしてまっすぐの姿勢にしようとすると腰の反りが異常に出て、
腰痛になってしまうことになるのです。
その為上半身のストレッチを日々行う事でしっかりと柔軟性を確保しておくことはとても大事なのです。
4. 下肢筋肉の硬さによる痛み
これも車椅子生活をしている人達にとっては避けても通れない悩みです。
車椅子に長時間座っている以上、
どうしても股関節屈曲筋(主に腸腰筋、大腿直筋)が優位になりやすくなります。
すると、股関節屈曲筋が硬くなってしまい、
股関節がしっかり伸ばせなくなってしまいます。
また長時間の座位で坐骨神経が圧迫されている状態が長くなるのも腰痛の原因になります。
ただでさえ、立位時間も取れなく、臀部の筋肉は萎縮してしまいがちです。
そうなると座っているという行為だけで、坐骨神経はより圧迫されやすくなってしまうのです。
この二つの状態を緩和するには1や3で示した通り、定期的なストレッチと座位時間の減少しかありません。
5. 痙性による筋肉のアンバランスによる痛み
痙性は主に脊髄損傷、多発性硬化症、脳性麻痺、酸素欠乏脳症、脳外傷などといった疾患で起こります。
痙性は個人差が大きいですが、痙性によって筋バランスは大きく影響を受けます。
腰の痙性が強すぎる人は腰の反りが強くなりすぎたり、
腹部の痙性が強い人は股関節が伸びづらくなったりしてしまいます。
また左右差があると側弯症の原因となることもあります。
これを解消するには痙性をうまくコントロールし仲良く付き合っていくしかありません。
痙性は悪い事ではなく、痙性があるからこそ、
筋ボリュームの維持もできますし、様々な動作を可能にしてくれます。
日頃の動作でしっかり痙性をコントロールしていく事がとても重要です。
記事のまとめ
まだまだ腰痛の原因として考えられることは多いですが、
今回は車椅子ユーザーに特化して腰痛の原因を考察してみました。
今回の原因に全て当てはまることはないですし、
強い症状がある際は専門家に診てもらうことをお勧めします。
とはいっても、車椅子生活、そして車椅子生活に至る症状が根本的な原因になっている場合が多いので、
地道に身体を動かしてケアする事が腰痛の緩和に大きく影響することもあります。
車椅子生活での腰痛にお悩みの方はぜひご相談ください。
参考文献
1. Christina Michailidou, Louise Marston, Lorraine H. De Souza & Ian Sutherland (2013) A systematic review of the prevalence of musculoskeletal pain, back and low back pain in people with spinal cord injury, Disability and Rehabilitation, 36:9, 705-715, DOI: 10.3109/09638288.2013.808708
2. Reiter AL, Volk A, Vollmar J, Fromm B, Gerner HJ. Changes of basic bone turnover parameters in short-term and long-term patients with spinal cord injury. European Spine Journal. 2007;16(6):771-776. doi:10.1007/s00586-006-0163-3.