脊髄損傷者、特に頸髄損傷者の中には「車いすを使わずに生活している」、「車いすと歩行を併用して生活してる」方も多いと思います。
このような生活をされている方の悩みで多いのが、「足首の硬さ」や「爪先の引っ掛かり」ではないでしょうか?
今回はそんな立てる、歩ける方が抱えている悩みの原因と自主トレや生活で注意すべきポイントをご紹介します。
*今回は専門的な内容も多い為、難しいと感じる方は「ポイントと注意点」「おすすめの運動」をご覧ください。
目次
- 歩ける脊髄損傷者の悩みや特徴
−足首が硬い、可動域が小さい
−膝をスムーズに曲げ伸ばしできない
−バランスが不安定
−腰が引けている
- 歩行中に足が上げにくい!その他の原因
- 歩行を変える自主トレメニュー
- まとめ
この記事は、理学療法士やアスレチックトレーナーとして障害者、車椅子ユーザーのリハビリ、トレーニング経験を多く持つ、障害者専門のパーソナルトレーナーが書いています。
歩きのにくい原因と影響
歩ける脊髄損傷者が抱えている悩みや特徴には以下のようなものがあります。
- 足首が硬い、可動域が小さい
- 膝をスムーズに曲げ伸ばしできない
- バランスが不安定
- 腰が引けている
まずはこの4つの特徴について、これらの現象がなぜ起こるのかと歩行に及ぼすに影響ついて解説していきます。
【原因】
歩行の悩みで多いが足首の上げにくさ(背屈)であり、原因は強い痙性によるアキレス腱やふくらはぎの柔軟性の低下で起こりやすいです。
【歩行中の問題点】
- 爪先が引っかかりやすい
足首が硬く背屈ができないと足首が下に垂れてしまいうため、爪先が引っ掛かって転倒の危険が高くなります。 - 重心移動が止められてしまう
背屈角度の低下は歩行中の重心移動を妨げる原因にもなります。それを以下の図でご説明いたします。
図は歩行中の足を横から見て前方へ移動している様子を表しています。
軸足を付いて前に移動するに従って足首の背屈角度は増して行きます。(図の赤丸)
特に「図②〜③」では背屈角度が10°必要であり、これによってスムーズな体重移動が行われます。
しかし、足首が硬いと体重移動が止められ、「腰を引いたり」「爪先立ち」のような歩行になってしまいます。
足首の硬さは非常に多くの脊髄損傷者で起こる為、この2点は経験のある方も多いのではないでしょうか。
【原因】
「大腿四頭筋の強い痙性(もも前の筋)」と「ハムスリングスの弱さ(もも裏の筋)」が原因で交互に「りきむ」「緩む」事ができず、スムーズな膝の曲げ伸ばしが制限されてしまいます。
【歩行中の問題点】
瞬間的に力を入れたり、強い衝撃が足にかかる事で痙性は強く反応しやすい特徴があります。
「足を地面に付く時の衝撃」や「ハムストリングスの筋力低下によって勢いよく膝が伸びてしまう」事で大腿四頭筋の痙性が強くなりがちです。
その結果、ステップを出す瞬間に膝がスムーズに曲らず、引っ掛かり感が生じてしまいます。
これは過剰に力を入れて足を上げたり、無理やり膝を曲げようとする事でさらに痙性が強くなってしまう悪循環となりかねません。
【原因】
歩行中にバランスを崩す原因は足の問題だけでなく、実は上半身の柔軟性も影響しています。
特に背骨や胸郭、腕の硬さが問題となります。
【歩行中の問題点】
- 腕でバランスが取れず不安定になる
バランスが乱れると自然と腕を開いたりして身体を安定させますが、麻痺や硬さがあると腕をバランス反応に使う事ができません。その為、転倒しまいと余計な力が入って全身の緊張が高くなってしまいます。 - 背中が硬いと、効率的な歩行とバランスが阻害される
背骨はそれぞれが個別に動ける事でバランスを精密にコントロールしている為、動きが制限されると少しの重心の乱れを大きく感じたり、不安定感につながります。
例えば歩行中の背骨の動きは、腰椎の7番を中心の上下の回転軸が変化する事でうまくバランスをとっています。
(右足を地面に着いた時から反対の左足を着くまでの動きとして、「第7胸椎より上部は右回旋(時計周り)、下部は左回旋(反時計周り)」するという事です。)
図で示した肩甲骨下角(肩甲骨の下)が第7胸椎の位置になります。
バランスが不安定な原因は上記2点のように足以外が影響している可能性もあるのです。
【原因】
腰が引ける原因はいくつかあり
- 腹部の痙性や硬さによってお腹を伸ばす事が難しい
- 股関節周りの筋肉(腸腰筋・大腿四頭筋)が硬く、お尻を前にできない
- 足首の硬さ(背屈制限)
- 前方へ体重移動する恐怖感、後ろに倒れそうな感覚からお尻を引いている
などです。
【歩行中の問題点】
腰が引ける事での問題点は足の上げにくさ(ステップ)につながります。
通常は体を起こし、股関節を伸ばす事で筋肉の張りを作って足を振り出しますが、腰が引けているとこの動作が行えない為、足を上げる為に過剰な力を使ってしまいます。
腰が引けている原因は一つではなく、様々な要素が重なって起こっている事が多い為、改善には一苦労する部分でもあります。
ここまでを一度まとめておきましょう。
歩行可能な脊髄損傷者の方が抱いている悩みや特徴についてお伝えしていきましたがいかかですか?
少なからずご自身に当てはまる項目があったと思います。
我々が多くの脊髄損傷者とトレーニングしてきて感じていることは、皆さん足のストレッチや自主トレは念入りに行うのですが、体幹や腕の運動を行なっている時間が少ない傾向にあります。
確かに足の柔軟性は大切ですが、それ以上に背骨や肋骨、腕まわりの硬さや筋緊張は歩行に影響を及ぼすため、非常に重要なポイントになります。
また、前方へ体重移動する恐怖感は、倒れてた時に「上半身で受け身が取れない」、バランスが崩れた際に「素早く足が出ない」など理由から来ています。
その為、これらの要因が改善されないまま、無理に歩行スピードを上げたトレーニングなどは逆に筋緊張を高める原因になるため時期の見極めと注意が必要です。
歩行中に足が上げにくい!その他の原因
歩行中に足が上げにくく、引っかかってしまう原因はここまで紹介してきた4つの特徴が大きく関与しているのですが、それ以外にも影響を及ぼしている原因をお伝えします。
【腰の硬さ】
足を上げるには体の背面の筋肉(腰や背中の筋肉)の柔軟性が必要な為、背面筋が硬いと足を上げる際の抵抗になってしまいます。
【腹圧の低下と骨盤前傾】
「腹圧の低下」や「腸腰筋・大腿四頭筋の硬さ」があると骨盤が前傾(前に倒れる)し反り腰になってしまいます。
この骨盤前傾の状態では足を上げた際に、骨盤と足の付け根がぶつかってうまく足が上がりません。
また、腹圧が入らないと上げた足を空中に保持している事も難しくなります。
【体幹ー骨盤ー足の柔軟性低下】
体幹や骨盤周囲の緊張が高い場合、足のステップに上半身がつられ(筋に引っ張られる)てしまい、ロボットの様な硬い動きになってしまう特徴があります。
特に内ももの硬さは足のスムーズな交互運動を阻害してしまう原因になります。
上記以外にも足を上げるために必要な腸腰筋やハムストリングスの筋力低下、軸足の支えの弱さなどが原因となる事もあります。
歩行を変える自主トレメニュー
お伝えしてきた問題点は、それぞれが影響し合い身体を動かしにくくしている為、ご自身が感じている問題以外にも歩行に影響を及ぼしている可能性があります。
ですので、以下の項目は毎日の自主トレメニューに取り入れてみてください。
【爪先が上がらない】
- 膝下から足裏全体をストレッチ、特にアキレス腱~足趾(足裏)が大切!
- 膝下前面の筋肉(すね、前脛骨筋)で硬くなっている部分をマッサージ
【膝をスムーズに曲げ伸ばしできない】
- うつ伏せで膝の曲げ伸ばしを左右交互に実施(お尻が上がらないように注意)
- もも前の筋肉(大腿四頭筋)のストレッチ
【バランスが不安定】
- 肩甲骨、胸郭、胸椎のストレッチ
リンク先の「上半身〜体幹への使い方」を参考にしてください。
フォームローラを使ったストレッチ方法 - 車いす上でのストレッチはこちら
車いす上での運動方法
【へっぴり腰】
- 腸腰筋や腹部のストレッチ
リンク先の「体幹〜下半身への使い方」を参考にしてください。
フォームローラを使ったストレッチ方法 - 足首と足指のストレッチ
徒手によるストレッチ方法
まとめ
今回は歩行可能な脊髄損傷者の悩みや特徴と歩行に及ぼす影響をお伝えしました。
専門的な部分もあり難しい内容になっていますが、自分の身体がなぜそうなっているのか?を知る事で意識する部分や自主トレの効果も変わってきます。
また、ご自身の問題点がわからない方は、この記事を参考に歩きにくい原因を探りならが移動したり、トレーニングをしてみてください。