尿路感染症は脊髄損傷者に非常に多い合併症の一つで、褥瘡(ジョクソウ)と並んで脊髄損傷の二大合併症とされています。
研究によると脊髄損傷者の約80%以上に尿路感染がみられるとされ、症状が悪化すると命の危機を招くことも・・・
そこで今回は脊髄損傷の尿路感染症について原因や症状と予防方法をお伝えします。
そもそも脊髄損傷とは何か知りたい方はこちらから
脊髄損傷とは?わかりやすく説明します
目次
・脊髄損傷の合併症、尿路感染とは
・脊髄損傷における尿路感染の原因と症状
・尿路感染の予防方法
・まとめ
この記事は、理学療法士やアスレチックトレーナーとして脊髄損傷のリハビリ、トレーニング経験を多く持つ、障害者専門のパーソナルトレーナーが書いています。
脊髄損傷の合併症、尿路感染とは
尿路とは尿が体内から体外に出されるまでの尿の通り道のことを言い「腎臓ー尿管ー膀胱ー尿道ー体外」に分けることができます。
- 尿管:腎臓ー膀胱
- 尿道:膀胱ー体外
このようにそれぞれ臓器をつないている管が尿管と尿道に区別され、どこで感染や炎症が起きているかで症状や病名が変わってきます。
尿路は男性、女性で作りが異なり、女性の方が尿道が短く膀胱までの距離が近いため、侵入した細菌がすぐに膀胱に到達してしまうといった特徴もあります。
尿路感染とは先ほど説明した尿路のどこかに菌が住み着きどんどん増えることで「炎症反応」が起きることを言います。
菌が増えた場所によって症状や呼び方が違い、尿を貯める膀胱で炎症した場合は「膀胱炎」、腎臓で炎症した場合は「腎盂腎炎(じんうじんえん)」と分類されます。
通常では尿路に侵入した菌はおしっこによって出され、免疫力により退治されるため、簡単に腎盂腎炎は起こりません。
しかし、脊髄損傷の場合は自力で排尿することが難しかったり、排尿する回数が健常者と比べ少ないなどの原因で侵入した細菌が体内に溜まりやすいのです。
これが脊髄損傷者が尿路感染を起こしやすい原因の一つです。
脊髄損傷における尿路感染の症状
膀胱炎の症状
通常であれば、膀胱炎を起こすとおしっこの時に痛みや残尿感などの症状がみられますが、脊髄損傷では感覚障害や膀胱機能障害の為、このような症状に気づかない場合が多いです。また膀胱炎では発熱も起こりにくく自覚症状がほとんどないこともあります。
*留置カテーテルを使っている方では尿が白く濁ったり、浮遊物がある時は膀胱炎の可能性が高い為、注意が必要です。炎症が非常に強くなると尿道がただれ、血尿がみられることも・・・
腎盂腎炎の症状
腎盂腎炎は感染が腎臓付近にまで及ぶことで起こる症状です。腎臓は背中に近い為、腎盂腎炎になると背中がなんだか痛むといった症状が現れることがあります。
また、多くの場合38℃以上の高熱になることがり、菌が血管を伝って全身に回ると命に関わることもある病気です。
カテーテル
脊髄損傷では多くの方が排尿機能を障害しカテーテルを使って排尿します。この時に手が汚れていたり、カテーテルに菌が付着してるなどの原因で、尿道に菌が侵入してしまいます。
脊髄損傷ではカテーテルを使った時の感染率が最も高いとされています。
留置カテーテル
カテーテルを使った排尿ができない方は膀胱に直接カテーテルをつないだ留置カテーテルを使います。この場合、カテーテルと尿道の接続部や排泄バッグの排泄口から菌が侵入することがあります。
また、留置カテーテルは定期的に交換が必要で交換期間が10日を過ぎると感染リスクが高くなると言われています。
オムツ
オムツに感染はカテーテルに比べると多くないという研究データがありますが、便や尿の放置によって細菌が増殖、侵入する可能性が高いため、清潔に保っておく必要があります。
尿路感染の予防方法
尿路感染の原因が解ればそれに対する対処をするだけでもかなり効果があります。
- カテーテルを使った排尿時は手を清潔な状態にする
手洗いやアルコール除菌は必須で、外出時は携帯用のアルコール除菌剤を持っている方も多いです。 - 尿を溜めすぎない
留置カテーテルの場合、カテーテルがねじれていると、尿が流れず詰まってしまうことが多々あります。
定期的に尿が流れているかチェックしてみてください。 - 排泄バッグを床に直接つけない
- 逆流を防止する為にバッグを尿道より高く持ち上げない
- 留置カテーテルはなるべく10日以内に交換する
これらの項目を気をつけるだけでも十分な感染症の予防になるため、日常生活から意識してみてください。
急性膀胱炎の三大症状
- 排尿時の痛み
- 尿の濁り
- 頻尿
急性腎盂腎炎の三大症状
- 急な発熱と高熱 (38℃以上)
- 腰痛
- 尿の濁り
以上のような症状が一般的な身体変化として起こります。これらの症状が出た場合は早急に病院で受診しましょう。
脊髄損傷者の中にはカテーテルなどを使わずに自力で排尿できる方もおり、手で腹部を押す、下腹部に力を入れて押し出すなどの方法で排尿されています。
下腹部や体幹のトレーニングを通して腹圧を上げたり、手でお腹を押せるようになるといった変化に伴って排尿が自力で出来るようになる方もおり、自力排尿されている方はやはり尿路感染にかかる割合が少ない印象を受けます。
そのため自力で排尿ができることで、尿路感染のリスクを減少させることができると言えます。
*強く力んで排尿するという方法は危険もあり、腎臓に尿が逆流してしまう恐れもあるため、過度な力みには注意が必要です!
まとめ
脊髄損傷の合併症で多い尿路感染について、その原因や対策方法をお伝えしました。
合併症は原因や対策を知っていることで防げる場合が多いです。入院中は医師や看護師が定期的にチェックしてくれますが、退院したら自分で管理しなければいけません。
今回、ご紹介した予防の方法以外にもきっと色々な方法で対策されている方も多いのではないでしょうか。
尿路感染を予防する為に気をつけていることがあればぜひお知らせください。
参考文献
- 脊髄損傷患者の尿路感染に関する研究,上戸 文彦,日泌尿会誌,55巻,2号,1964