脊髄損傷者の中には突然「頭がガンガンしたり」「鳥肌が立ったり」といった経験をしたことはありませんか。
それは「自律神経過反射」のサインなのです。
自律神経過反射はAD(Autonomic Dysreflexia)とも呼ばれたりしています。
自律神経過反射とは身体に何らかの危険が迫っているサインと言えます。そのため、早急に原因を取り除かなければ生命の危機になりうることもあります。
そこで今回は自律神経過反射の仕組や対処方法をお伝えします。
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目次
・頸髄損傷で自律神経過反射が多いわけ
・自律神経過反射の仕組み「体では何が起こっているのか」
・自律神経過反射のサインと特徴
・自律神経過反射になった時の対処方法
・まとめ
この記事は、理学療法士やアスレチックトレーナーとして脊髄損傷のリハビリ、トレーニング経験を多く持つ、障害者専門のパーソナルトレーナーが書いています。
頸髄損傷者で自律神経過反射が多いわけ
自律神経過反射は脊髄損傷者の中でも一部の方に見られる症状です。
その違いを詳しく説明していきます。
自律神経とは睡眠時の呼吸、食べ物の消化、心臓の鼓動など無意識に行われている生命活動を司っている神経です。
人はこの無意識に行われている様々な生命活動によって生活しています。
そして自立神経には興奮した時に働く「交感神経」とリラックスしているときに働く「副交感神経」の2つがあります。
脊髄を損傷すると運動神経以外にもこのような生命活動を司っている自立神経もダメージを受けてしまいます。
自律神経過反射は一般的に胸髄の5、6番のレベルより上で脊髄が傷ついた場合に起こると言われ、特に頸髄損傷者に多く見られる現象です。
それを下の図を使って説明していきます。
図は交感神経と副交感神経の経路を示しています。
黒い線:交感神経 赤い線:副交感神経
出典「 在宅生活ハンドブックNo.25」 自律神経過反射の対処法
- 交感神経:胸、腰(体幹部)から神経を伸ばして全身の内臓や血管、皮膚などを支配しています。
- 副交感神経:頭、お尻から全身の臓器に伸びています。
例えば、頸髄を怪我したとしましょう。
その場合、首から下の「体幹から出ている交感神経(黒線)」と「お尻から出ている副交感神経(赤線)」はダメージを受けますが、「頭から出ている副交感神経(赤線)」はダメージを受けてません。
一方で腰付近の胸髄の12番を怪我した場合では「お尻から出ている副交感神経(赤線)」はダメージを受けますが、「体幹から出ている交感神経(黒線)」と「頭から出ている副交感神経(赤線)」はダメージを受けません。
このように脊髄のどの部分で怪我をしたかによって自律神経のダメージ具合が変わってくる関係で頸髄損傷では自律神経における障害が起こりやすいのです。
自律神経過反射の仕組み「体では何が起こってるのか」
例えば、足に怪我をしたとします。
健常者であれば怪我による痛みが足から脳に伝わって、脳が「足を怪我したんだな」と認識します。
しかし脊髄損傷の場合、痛みを伝える神経も損傷したレベルで途絶えてしまうため、脳まで怪我をした事や痛みの情報が伝わり難くなります。そこで登場するのが「自律神経過反射」です。
痛みや不快な刺激が正常なルートで脳に伝える事ができない脊髄損傷者にとって、自律神経過反射は非常に重要なサインなんです。
自律神経過反射の仕組を足の怪我を例に説明していきます。
健常者の場合
- 怪我をすると血管の反射的な活動によって血圧が上がります。
↓ - 痛みの感覚は脊髄を伝って脳にメッセージを送り、血管や血圧の状態を伝える脊髄以外の経路(自律神経)を伝ってメッセージを送ります。
↓ - 血圧が上昇したままだと危ないので、脊髄を通して血圧を下げる働きが起こって血圧を正常値に戻します。
脊髄損傷の場合
- 健常者と同様に怪我をすると血管の反射的な活動によって血圧が上がります。
↓ - 痛みのメッセージは損傷したレベルで途絶えてしまうため、脳まで情報は伝わりません。ですが血圧の上昇は自律的な経路を伝って脳に送られます。
↓ - 血圧の上昇を感知した脳は血管を広げ、血圧を下げようとします。ですが、損傷レベルが胸髄の5、6番以上の場合、血圧を下げるメッセージが届きません。
これは血管の運動を司っている神経のほとんどが胸髄の6~10番が支配しているためです。
↓ - そのため、怪我よって上昇した血圧を下げることができずに血圧が高いままになってしまいます。
↓ - 高血圧が続く事で「頭痛」「鳥肌」などの症状が身体の異変(サイン)を伝えるために現れます。
これが脊髄損傷者における自立神経過反射の仕組みです。
自律神経過反射のサインと原因
血圧が上昇し続けることで身体には様々なサインが現れます。
- 頭痛
- 顔面が赤くなる
- 脈が下がる
- 額や首に汗をかく
- 鳥肌が立つ
- 鼻づまり
- ゾワゾワする
などの症状が現れたら注意が必要です。
どのサインが現れるかは人それぞれ特徴があり、自分でサインに気づけない場合もあるので、ご家族やヘルパーなど関わる方すべてに理解が必要です。
自律神経過反射になった場合、以下の原因が考えられます。
- 膀胱への刺激、カテーテルの詰まり
- 尿バッグが一杯になっている
- 便秘
- 切り傷、打撲、擦り傷
- 褥創(ジョクソウ)
- 巻き爪
- やけど
- 生理痛
- 骨折
- 強すぎる身体の締め付け
自律神経過反射のサインが現れた場合、まずはこれらの原因がないか疑ってみてください。
自律神経過反射になった時の対処方法
まずは、自律神経過反射が起こっている原因を取り除くことが先決です。
そして、血圧が極度の上昇してるため、そのままでは脳の血管がダメージを受けてしまう場合もあります。
速やかに座る姿勢をとり、頭を上げて足を下げましょう。
周りの人が慌てると本人も不安や興奮状態になってしまうため、出来るだけ冷静に深呼吸をしてリラックスしてください。
すぐに対処できる原因もあれば、骨折や火傷の場合は対処が難しいですよね。その時はすぐに掛かりつけの病院に行くか、電話をしましょう。
まとめ
自律神経過反射は身体に何らかの不快な刺激が加わる事で血圧が上がり、その上がった血圧を下げる事ができないために頭痛や鳥肌などのサインが現れることを言います。
このサインをそのままにしておくと、身体に悪影響を及ぼすため身体への不快な刺激を早急に取り除く事が必要です。
自分の身を守るためにも、自律神経過反射の特徴的なサインや原因を理解しておきましょう。
参考文献
- 脊髄損傷患者の尿路感染に関する研究,上戸 文彦,日泌尿会誌,55巻,2号,1964
- 自律神経過反射の臨床的検討,小谷 俊一,泌尿器科紀要 (1985),31(7):1143-1149,1985-07