みなさん、高齢脊髄損傷の受傷原因が近年急速に変化してきている事をご存知でしょうか?
10年前までは、交通事故が第1位で38.1 %、高所転落が第2位で32.5 %であったと報告されています。
しかし、2015年の報告では高所転落42.7%、交通事故29.1%と逆転しているのです。
このように近年、変化しつつある脊髄損傷の受傷原因を「若年脊髄損傷者」と「高齢者脊髄損傷者」という観点からみていき、さらに将来の脊髄損傷の受傷原因についても考察していきたいと思います。
若年脊髄損傷と高齢脊髄損傷の違い
はじめに若年脊髄損傷者と高齢脊髄損傷者の受傷原因の違いをみていきたいと思います。
「若年脊髄損傷者群」
- 1位:交通事故 37.5 %
- 2位:高所転落 32.6%
- 3位:スポーツ外傷 8.2%
「高齢脊髄損傷者群」
- 1位:高所転落 42.7%
- 2位:交通事故 29.1%
- 3位:転倒 11.1%
このように2015年の報告では「若年脊髄損傷者」と「高齢脊髄損傷者」では受傷原因に違いがあり、「若年脊髄損傷者」では1位が交通事故で「高齢脊髄損傷者」では1位が高所からの転落となっています。
【高所からの転落が多いわけ】
全世代で高所転落が多いのは日本の建物が高層化している影響しているかもしれません。
アフリカ地域などでは高層ビルや高い建物が少ないため、高所からの転落が原因で脊髄損傷になる方は少ないのです。
【交通事故】
少し前までは交通事故が受傷原因の第1位でしたが、少子高齢化や自動車技術の発達に伴って今は減少傾向にあるようです。
高齢者の自動車事故多発に関して
ここ数年、高齢ドライバーによる事故が多発しています。
脊髄損傷といった観点からこの問題を見ていくと、高齢脊髄損傷者の受傷原因の第2位が交通事故ですから、少子高齢化が進む日本にとっては今後もますます交通事故による脊髄損傷の割合が増加してくるのではないかと思いますよね。
しかし、私は高齢ドライバーによる交通事故は減少し、さらに交通事故による脊髄損傷自体の割合も減少してくると考えています。
その背景には
- 高齢ドライバーによる事故多発防止策が取られる可能性が高いから
- 日本の高齢化に伴って自動車自体に乗らない割合が増えてくるから
- AIやロボットの発達に伴って自動運転技術が事故率を減少させるから
この様に考えています。
つまり自動車の安全性の底上げや自動車に乗らない世代の増加によって、交通事故による脊髄損傷の割合はさらに減少してくると思われます。
社会の変化に伴って脊髄損傷の受傷原因も変化する
ここからは今後、どのような事が原因で脊髄損傷になるのかを深掘りして行きたいと思います。
画像のグラフデータは2017年までの統計になります。
2015年の報告では高齢脊髄損傷者の受傷原因は1位:転落、2位:交通事故、3位:転倒であったのに対し、2017年のグラフでは自動車での交通事故が減少し、転倒が増えています。
このデーターからも分かるように、今後は自動車技術の発達や高齢者の増加に伴って全体の交通事故率はさらに減少してくるでしょう。
そこで、次は何が原因で脊髄損傷となるのか予想していきましょう。
まず、「若年脊髄損傷者」からみていくと、AIやロボットの発達に伴いこれまで人が行ってきたことをAIやロボットが代替してくれる事で人は娯楽やスポーツを楽しむようになります。
すると、今度は娯楽(特にアクティビティー系の娯楽)やスポーツ(コンタクト系のスポーツ)に伴った事故が増加してきます。
現在は16歳-30歳の交通事故率が最も高くなっていますが、将来的にはグラフが変化してくるでしょう。
「高齢脊髄損傷者」であれば、交通事故による受傷が年々減少していき、転倒、転落による受傷割合が今後もさらに増える事が確実です。
特に61歳-75歳と76歳以上の「転落」による受傷割合は同等なのに対し、76歳以上では「転倒」による脊髄損傷の割合が多い事がわかります。
少子高齢化に伴い、将来の脊髄損傷者の多くは高齢による「転倒」が原因で脊髄不完全損傷および、中心性の脊髄損傷が増えてきます。
そしてすでに近年、高齢者の転倒による脊髄損傷は増え続けている現状がありあます。
*中心性脊髄損傷は足よりも腕に麻痺が強い事が特徴的である
スポーツによる外傷性脊髄損傷の割合
スポーツ外傷によ外傷性脊髄損傷者は平均年齢は28.5歳で年間250人が発症しています。
受傷が多いスポーツの割合をみていきましょう。
- 水への飛び込み 26.1%(全て頸髄損傷)(10代に多い)
- スキー 13.4%(壮年期)
- ラグビー 12.6%(10代に多い)
- スカイスポーツ 7.0%(壮年期)
- 柔道 6.8%(10代に多い)
- 体操 6.6%(10代に多い)
- 野球 3.9%、モーターレース 3.7%、水泳 2.4%、バスケットボール 1.7%、乗馬 1.3%、自転車競技 1.3%
皆さんいかかでしょうか?
これから夏に向けてプールや海へ出かける方は特に注意が必要ですね。
この様な危険性を知った上でレジャーやスポーツを楽しみましょう。
まとめ
今回は若年脊髄損傷者と高齢脊髄損傷者の受傷原因の違い、さらには近年急速に変化してきている受傷原因から将来的な脊髄損傷の受傷原因を私なりに推察してみました。
まとめると
- 年々、高齢者の交通事故による脊髄損傷は減少してきている
- AIやロボットの発達に伴い若年者の交通事故の割合も減少してくる
- 高齢による「転倒」が今後さらに増える事が予想される
- スポーツ外傷では飛び込みによる受傷が多い
- 交通事故に変わる受傷原因を考え、その対策を今から実施してく事が大切
脊髄損傷者は日本全国で約20万人おり、新たに毎年5000人が脊髄損傷になっていると言われています。
残念ながら毎年5000人という数字は長年変わってません。
新たな脊髄損傷を減らすには、次に何が原因で脊髄損傷となるのかを考えること、そしてその予防策や対処法を今のうちから世の中に広めることが大切であると感じます。
例えば学校や施設、スポーツの現場への危険喚起やバリアフリー化による転倒、転落の減少などあると思います。
我々がまずできる部分は、学校や施設、スポーツ現場での親御さんへの指導、注意喚起です。
実際に少しづつですが、小学校の親御さん向けに注意喚起や指導といった活動をさせていただいております。
今回は高齢者(76歳以上)の「転倒」による脊髄損傷を何らかの形で防止していく必要性を強く感じました。
交通事故が減ったその先の未来も同時に考え、対策をとっていく事が将来の脊髄損傷発生率を減少させる事に繋がると思います。
今後も脊髄損傷に関する様々な情報を発信していき、皆さんが危険性を考慮した上で日常生活を過ごしていただけたらと思います。
参考資料
- 日本における高齢者脊髄損傷の状況
- スポーツ外傷による頚髄損傷 ―脊髄損傷の発生状況と現場での取り組みおよび診断、治療のピットフォールと変遷ー
- 全国脊髄損傷データーベース