障害者や車椅子ユーザーが気軽に使える運動施設は非常に少ないですよね。
その為、運動に対するハードルが高くなり、健康の維持や二次的障害(褥瘡、筋力低下、関節拘縮、生活習慣病など)の予防が難しいといった悩みがあります。
この問題に対して、施設の増加や障害者スポーツを広める対策が取られていますが、スポーツ庁が目指している水準までは届いていない現状です。
当記事では障害者スポーツの参加率に関する研究調査を元に、ハード面の障害が運動機会を奪っている現状と、ハード面の解決だけでは運動参加が増えない当事者の本音をお伝えしていきます。
目次
- 障害者スポーツの参加と推進
−健常者と障害者のスポーツ実施割合
−実施率が低い原因とは
−関心を高める為に必要なこと
- 運動の習慣化が健康を創造する
−障害者に聞く、運動が難しい本当の理由とは
−運動参加率を向上させるために必要なこと - ホームエクササイズ紹介
−体幹トレーニング
−柔軟性トレーニング
−その他のトレーニング - まとめ
この記事は、障害者・車椅子ユーザーのリハビリやトレーニング経験を多く持つ、理学療法士やアスレチックトレーナーが書いています。
障害者スポーツの参加と推進
「健常者と障害者のスポーツ実施率」の調査を元に、過去1年間にスポーツ・レクリエーションを週1回以上行った者の割合(2012年vs2019年)を比較してみます。
2012年
- 成人の健常者:50%
- 成人の障害者:18.2%
2019年
- 成人の健常者:53%
- 成人の障害者:25.3%
2019年の調査では実施率の増加がみられ、これは東京パラリンピックの開催が決定しパラスポーツを新たに始める人や使用できる施設が増加したことが関係していると思われます。
ですが、スポーツ庁の目標(成人のスポーツ実施率を週1回以上が65%程度、障害者は40%程度)にはまだまだ届かないといった現状のようです。
障害者が使えるスポーツ施設は全国にどのくらいあるかご存じでしょうか。
その数は139施設に登りますが、障害者が優先的に使える施設の割合はわずかに留まるそうです。
その理由には
- 施設の利用を断られる
- 体育館に傷がつく
- 介助者がいない
- 安全が確保できない
- 設備が整っていない
などの理由があげられます。
「障害者が使える施設数が少ない」「施設側の理由により使用が断られる」といった2点が主に障害者スポーツの参加率が低い原因とされています。
- 日常での障害者と健常者の物理的距離を縮めること
- 障害者のスポーツ実施の推進
- 無関心層に向けて障害者スポーツを知る機会を増やすこと
などが対策として必要とされています。
これらの働きかけは重要であり、健常者側の理解や関心が深まることは、障害者の運動参加率向上に欠かせない課題です。
しかし、パラリンピックが迫った現在でもスポーツ庁の目標である障害者の運動参加率40%に届いていないのはなぜでしょうか?
次にその原因について考えてみます。
運動の習慣化が健康を創造する
ここからは我々が独自に行った障害者、車椅子ユーザーの運動に関するアンケートを元に運動参加が増えない理由について考えていきます。
運動ができない理由はなんですか?
- 運動の仕方がわからない
- 一人でできない
- 負荷量がわからない
- 運動できる場所を知らない
- 使えるマシーンがあるかわからない、車椅子で通れるか不明
- 施設まで移動手段がない
- 天気が悪い日は外出できない
いかがでしょうか。
特に「運動のやり方がわからない」「一人でできない」「負荷量がわからない」などの意見をみると、ハード面を整えるだけでは障害者の運動参加率を推進するには不十分である事がわかります。
では障害者の運動参加率を上げるにはどのような働きかけが必要なのでしょうか。
結論から言いますと、運動参加率を増やすには「気軽な運動を毎日行う運動の習慣化」と「効果的な運動方法を知る」事が必要だと考えます。
運動といえば「ジムや施設に行き、筋トレやエクササイズマシーンを使ったトレーニング」といったイメージを持たれているかもしれません。
しかし、ホームエクササイズや車椅子を漕ぐ動作も立派な運動ですし、ストレッチを念入りに行うだけでも車椅子ユーザーにとってはかなり良い運動になります。
必ずしもジムに行き、ガシガシ身体を動かすだけが運動ではないのです。
チューブやダンベル、ストレッチポールなどのアイテムがあればより効果的ですが、アイテムがなくとも運動は可能ですので、その方法について紹介していきます。
ホームエクササイズ紹介
ここからは障害者や車椅子ユーザー向けのホームエクササイズを紹介していきます。
1つ目は車椅子上でできる体幹トレーニングです。
車椅子操作に必要な体幹の強化や捻りの柔軟性UPに効果的なエクササイズです。
チューブで抵抗を加えることでアスリートの方でも高負荷で行えます。
目安:片側30回ずつ、もしくは1分間の連続動作
2つ目は壁を使った肩、胸、背中のストレッチ方法です。
両手を壁に付け上半身を前に倒していきます。
上半身を倒す角度は肩の可動域に合わせて徐々にストレッチを加えて行きましょう。
余裕がある方は片側ずつもチャレンジしてみてください。
目安:1回1分程度を1日数回に分けて実施
こちらの記事では肩こりや猫背改善に特化した3つのエクササイズ動画を紹介しています。
腸活運動向けの運動となっていますが、車椅子ユーザーに必要な要素が詰まっているため、ぜひ実践していただきたい運動ばかりです。
フォームローラーを使った様々な種類のエクササイズを紹介しています。
車椅子上だけでなく、ベッドや床に降りてトレーニングを行いたい人向け。
ご紹介した運動のように、車椅子上でも工夫をしたり、少しのアイテムがあれば十分な運動が可能です。
また、1日数分でも毎日続けることで運動が習慣化し、それが2次的障害の予防や身体を健康に保つ事に繋がりますので、ご自身のできる範囲でチャレンジしてみてください。
まとめ
国や自治体は障害者の運動参加を推進しようと、施設数や認知度の向上に取り組んでいますが、もう少し時間がかかりそうです。
ではどうすればいいのか。
それは、今できる運動を増やし、健康に対する意識を高める、つまり「運動の習慣化」と「健康志向」が大切です。
一人ひとりの運動や健康に対する意識が変わることで、(運動や健康のニーズを高め、必要性を訴えていく)使いやすい施設や商品が世の中に増えてくる事につながると思います。
これまで、運動をしたくても方法がわからない、一人でできないと思っていた方は、ご紹介した運動を参考にして取り組んでみてください。
【参考文献】