【論文からみる】スポーツによる脊髄損傷の疫学調査

今回も面白そうな論文を見つけたので紹介します。

タイトルは
スポーツに起因する脊髄損傷の疫学調査:システマテックレビュー

実は脊髄損傷の疫学調査はとても少ないのです。

特に日本での疫学調査はなんと1990年から1992年に行われたものがありましたが、大規模なものはそれが最後で、それ以来2002年にも疫学調査は行われましたが、1990年のものと比較すると十分なものではないとされています。
なので日本で脊髄損傷の疫学を調べるとなると、何と25年も遡る必要があります。

そんな脊髄損傷疫学調査の実態ですが、この調査はスポーツ事故による脊髄損傷に注目して行われています。
このテーマでさらに世界規模で行われたものとしては初めてでないでしょうか!

 

これはスポーツに関わったことがあるトレーナーなら誰もが興味あるトピックでしょう!!
どんな現場でもスポーツセーフティーには特に気を使われていることと思います。
スポーツ現場での脊損を限りなく0に近づけるために。

それではこの研究をみていきましょう!

 

この研究は1980年から2015年までのデータ合計25ヶ国54文献を調べたと報告されています!
25の国の中には日本、アメリカ、イギリス、ロシア、フランス、などといった先進国からヨルダン、ネパール、フィジー、ナイジェリアなどといったマイナーな国も含まれています。

それではここから簡単に結果を振り返っていきます。

世界比較スポーツ由来脊損発生率

 

  1. ロシア (32.9%)
  2. フィジー (32.0%)
  3. ニュージーランド (20.0%)

となりました。

フィジー、ニュージーランドは明らかにラグビーの影響ですね。
そして1位のロシアはウインタースポーツの影響です。アイスホッケー、スキーが影響しているのです。
他の雪国でもウインタースポーツでの脊損発生はとても多いのです。そして我が国日本でも脊損の発生原因第3位となっています。
トップ6位までは(4:アイスランド、5:フランス、6:カナダ)スポーツでの脊損発生率が全体の発生率の13%を超えている状態です。

スポーツ別脊損発生ランキング

  1. ダイビング
  2. ラグビー
  3. 乗馬

やはり、1位は日本での発生件数同様ダイビング(飛び込み)によるものでした。

しかしこのダイビングにも種類があるのです。
どんな風に分類されているかと言うと、実は酔っている状態かそうじゃない状態かという分類で分けられているのです。

日本ではアルコールが影響したダイビングでの事故は3.4%ですが、なんとアメリカでは30%に跳ね上がります。
まあアメリカにはプールが家にあって、その周りでBBQパーティーなんてのが当たり前の光景なんで、そういった環境が大きく影響していることは間違い無いですが、これはあまりにも割合が多すぎますね。
日本人からしたら意外、アメリカの文化を少し知っていればイメージがつくところではありますが、まさしく文化の違い。
こういうところで少しでも脊損の数が減らせるのであれば、もっと我々としても警告していきたいですね。

 

頸損になりやすいスポーツランキング

*乗馬、アイスホッケー、スキー、スノーボード、ダイビング、アメフトの6つのスポーツで比較

  1. ダイビング
  2. アメリカンフットボール
  3. ウインタースポーツ(アイスホッケー、スキー同程度)

先ほどのランキングは脊髄損傷全体でしたが、こちらは頸損に絞ってランキングを出してみました。
1,2位のダイビング、アメフトは頸損の割合が95%以上になりるので、それらの事故での脊髄損傷はほとんど頸髄損傷と思ってもいいくらいですね。
私の周りにもアメフト、ダイビングで受傷している人がいますがやはりどちらも頸髄損傷ですね。

またダイビングではC4レベルの受傷が一番多く、ラグビーでの受傷はC4−5,C5-6が多いとも報告されていました。
この辺も受傷のメカニズムに大きく関わってきていますね。

あとはレポートシステムの違いによってスポーツに分類されるかそうじゃないかもあるんですが、例えばネパール。
ネパールではロッククライミングが盛んなんですけど、これによる事故をスポーツとするのか高所からの転落と分類するのか。これによって結果も大きく変わってきそうですが、今のところはスポーツには含まれていないようで。
その辺も分類が難しいところなんですね。

 

結論としては、このデータを元にどの国がどのスポーツで予防プログラムまたはレポーティングシステムを充実させていく必要があるかを示すことができるとされているのですが、我々としては、やはり一番の受傷原因となっているダイビング(水泳)はどうしても見逃せないスポーツ現場ではあります。
東京の都立の学校では今年度から飛び込みが禁止されました。
これに関しては様々な議論がありましたが、これをすることで少しでも脊損の発生率を抑えられると考えると、必要なことではないかという風にも考えられます。

どのスポーツ現場でも安全性、スポーツセーフィーが第一でありますので、環境づくりの重要さが再認識できますね。