「脳性まひ」の現状と取り巻く環境について。
当記事では脳性まひのリハビリや運動の特徴、運動の方法についてお伝えしていきます。
目次
- 脳性まひを取り巻く環境
- 通院リハと入院集中リハの違いと役割
- 脳性まひの運動
- 運動機能は使わないと悪化する
- 脳性まひの運動効果を上げる方法
脳性まひを取り巻く環境
脳性まひの運動に関する環境は大きく分けて二つあります。
一つは、脳性まひの運動に関して今だに明確な科学的根拠が得られていない現状です。
その背景に脳性まひは、「重症度、合併症、年齢」などの違いにより、一人ひとり症状が違いすぎるが故に、一定の研究結果が得られにくいからだそうです。
もう一つは、脳性まひを専門的にリハビリできる施設が少ないという点です。
また通院頻度を増やしたり、入院集中訓練を実施できる施設も限られています。
脳性まひを取り巻く環境は厳しく、明確な運動効果が少ないこと、さらに専門的なリハができる施設そのものが少ないといった現状にあります。
しかし、子供の成長に沿ったリハビリ、運動は大人以上に「時期」が重要になります。
このような状況では子供の能力が伸びる時期に適切な量と質のリハが行えず、その子が持つ機能を十分に伸ばすことができません。
通院リハと入院集中リハの違いと役割
【通院リハビリ】
通院リハビリでは生活の仕方や運動環境、家庭環境の調整が主体です。
日頃の生活をどのように過ごしていけばいいか、ご家庭の環境とともに訓練、指導していきます。
つまり、通院リハビリの場合は当事者だけでなく、ご家族も一緒にリハビリで習ったことを実践できるようになる必要があります。
【入院集中リハビリ】
入院集中リハビリでは日常で介護が困難な方や機能向上が不十分な方が主体です。
家庭や地域で介護が可能なレベルまで機能を引き上げたり、少なくともそのきっかけを作る役割の違いがあります。
ですが・・・。
そもそも通所や入院どちらにしても場所が少ない!!
といった問題が出てきます。
このリハビリ難民問題は脳性まひに限った事ではないですね。
脳性まひの運動
脳性まひは「脳」の「まひ」です。
この脳のまひによって起こる一番の障害は「運動まひ」です。
運動まひの特徴は手足が「 全く動かない 」のではなく以下の性質があります。
- 「うまく動かない」
- 「なめらかに動かない」
- 「非常に努力がいる」
- 「動かす方法がわからない」
つまり脳性まひは「動きたくてもうまく動けない」わけです。
その理由は、脳から送られる信号が筋肉に届かず、上手に動けない為に起こります。
このような状態の場合、無理やり動かすと脳が過剰に反応してしまい、逆に緊張が高くなり余計に動きを制限してしまいます。ですから「過剰に頑張る」、「無理やり動かす」などは禁止です。
コツは「正しく動く」方法を体で覚えていくことです。
運動機能は使わないと悪化する
立つ、歩くなどの運動機能は使わなければどんどん悪化していき、危ないからと寝たきり、座らせきりにしておく方が変形が悪化し、できることがどんどん減っていきます。
例えば、支えながら歩行ができるようになっても、学校での移動で車椅子が主体となると、歩行能力はどんどん低下してしまします。
歩行ができる、できないに関わらず「立つ能力」を長期に維持するために、立位・歩行練習は必要となります。
できなくなってから再び機能を取り戻すには非常に時間を要します。
今の機能を維持、向上させていく為に、日常生活の中でいかに立つ機会を作るかが最も重要となります。
脳性まひの運動効果を上げる方法
ここからは「脳性まひ児」に対する運動の方法を少しご紹介させていただきます。
最も効果的かつ大切なことは遊びを取り入れることです。
普段から運動している方はどうでしょうか。
ジムなどでただ黙々と筋トレをしていてもつまらないですよね。
子供ならなおさら、すぐに飽きてしまいます。
なのでこの「遊び」と「体を動かす事」を意識して、運動することが重要になってきます。
オススメはお気に入りの「おもちゃ」を使います。
おもちゃを両手で持ったり、目で追わせたりします。
この手と目を同時に使わせることが大切です。
「僕はそれで遊びたいんだー!」と子供の好奇心をそそるようにしてください。
初めは仰向けやうつ伏せで行い、そして座る、立つ動作を補助してあげながら、同様に遊びを通してなさまざな経験をさせてあげます。(寝ててはできない経験を重視しましょう)
遊びたいおもちゃが高い位置にあったら、立つ必要がありますよね。
子供の素直な欲求に対して適切に運動を促したり、介助してあげることで、運動の効率がグングン上がります。
環境整備の重要性
「学校はリハの場ではない」
「転倒の危険があり時間に制約があるため学校生活は車椅子」
などという理由で車椅子移動が主体となることが多いです。
しかし、生活の中でいかに立位・歩行の機会を確保していくかが課題となります。
「間違ったやり方で悪くしてはいけない」と心配されるかもしれませんが、悪いパターンは運動やご家族様への指導により軽減できます。
しかし、関節が硬くなったり、筋力の低下を戻すことは非常に大変です。
安全面による環境を整備して車椅子が主体とならないようにすることも重要なのです。
まとめ
- 脳性まひの専門的施設は少なく、適切な時期にリハビリする機会を失い、機能向上を十分に伸ばす事ができない場合がある
- 漫然と頻度の少ない通院リハを行っていると、機能向上の時期を逸してしまうことがある
- ご家族も一緒にリハビリで習ったことをで実践できるようになる必要がある
- 脳性まひの特徴は「動きたくてもうまく動けない」こと
- 脳性まひ児に対しては運動に遊びを取り入れる
- 生活の中でいかに立つ機会を作れるか
今回は脳性まひを取り巻く環境と運動・リハビリについてお伝えさせていただきました。
私のトレーニング経験上、脳性まひの方は使える機能を十分に発揮できていない場合が多く、少しのアドバイスや運動で姿勢が綺麗になったり、歩きやすくなったりされます。
ですので、ご自身でも麻痺している筋肉や硬い関節を意識して動かしてください。
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【参考文献】
- 脳性麻痺リハビリテーションとニューロリハビリテーション治療のハイブリッド化について: Jpn J Rehabil Med 2015 ; 52 : 605.608
- 脳性麻痺の部位別分類と類型分類:信州大学教育学部研究論集 第9号 2016年
- 脳性麻痺 リハビリテーション:Jpn J Rehabil Med 2016;53:359-364
- 脳性麻痺児におけリハビリテーションの実際ー運動機能を中心にー:Jpn J Rehabil Med 2017;54:449-454