脊髄損傷者では日々の排便に悩む事は少なくありません。慢性期の脊髄損傷者では排便に慣れている方も多いですが、入院中や退院後すぐの方では排便コントロールが難しく、便失禁してしまう場合もあります。
また、外出先での排便の不安から仕事、学校への外出を控える事も・・・。
そこで大事になってくるのが「排便を管理・コントロールする事」です。
今回は脊髄損傷者を対象に排便に関するアンケート調査を実施した研究をもとに、当事者の悩みや問題点、工夫についてお伝えしていきます。
目次
・脊髄損傷者の排便管理
・脊髄損傷者が抱えている排便の問題点
・便秘・排便を楽にする工夫
・トレーニング・社会復帰と排便コントロール
・まとめ
この記事は、理学療法士やアスレチックトレーナーとして障害者、車椅子ユーザーのリハビリ、トレーニング経験を多く持つ、障害者専門のパーソナルトレーナーが書いています。記事の内容はすべての脊髄損傷者に当てはまるわけではございません。
脊髄損傷者の排便管理
今回、参考にした文献は「脊髄損傷者の退院後の排便管理についての実態調査」〜脊髄損傷者の排便管理の問題を明らかにする〜というテーマの研究です。
まずは、この研究に参加した脊髄損傷者のデーターからお伝えしていきます。
- 対象者
脊髄損傷者233名(男性195名、女性38名) - 年齢
20代(17人)、30代(22人)、40代(32人)、50代(22人)、 60代(152人)、70代(25人)、80代(22人) - 受傷レベル
頸椎(161名)、胸椎(30名)、腰椎(36名)、不明(6名) - 受傷年月
1〜5年(107人)、5〜10年(95人)、10〜15年(7人)、15年以上(62人)
- 排便時の問題点
- 排便処置のタイミング
- 排便時間
- 使用している下剤
- 排便を促すためにおこなている事
参考研究から上記5つに絞ってお伝えし、「トレーニング・社会生活と排便について」も考えていきたいと思います。
脊髄損傷者が抱えている排便の問題点
脊髄損傷者の排便管理の難しさには、排尿と比べて目視での確認が困難な事や頸髄損傷者では摘便などの行動自体が難しい問題があります。
アンケートによると脊髄損傷者の75.6%が退院後もなんらかの問題を抱えており、体調不良の原因の多くが排便困難であったそうです。
以下の項目はアンケート調査で実際に当事者が感じている問題点になります。
排便時の問題点として図の通り「排出困難」「時間」「疲労感」「便失禁」「随伴症状」「おむつの選択」「手技」などに問題を抱えている事がわかりました。
皆さんは当てはまる項目がありましたか?
これらの症状は研究に参加した8割の脊髄損損傷者が抱えていた問題だそうです。
便の排出が困難な理由には身体麻痺によって腹筋に力を入れる事が難しい事や排便を促す自律神経の働きが低下している、また便が硬いなどの問題があります。
- 毎日行っている(29%)
- 定期的に行なっている(26%)
- 曜日を固定して行っている(19%)
- 便が出そうになった時に行っている(20%)
- 便が出てから、出た時に行っている(3%)
- その他(2%)、未回答(1%)
アンケートでは「毎日」と「定期的」が多く、排便処置の日を設定して実施している割合は74.2%であったそうです。
我々の関わっている脊髄損傷者でも「定期的」「曜日固定」の方が多い印象ですが、意外だったのが毎日実施している割合が一番多かった事です。
便秘に悩みなかなか便が出ないと言った声を聞く事が多いため、毎日排便を行っている方は、それだけ体調管理や食事に気をつけ、便の調子がいいという事でしょう。
- 15分以内 (42%)
- 16〜30分 (19%)
- 31〜60分 (19%)
- 61〜90分 (7%)
- 91〜120分 (6%)
- 121分以上 (5%)、未回答 (1%)
排便にかかる時間は「15分以内」が98人と最も多く、「30分以内」が全体の60割を占めていました。
脊髄損傷者の排便時間は「1〜2時間かかる」という方が多い印象でしたが、意外と15分以内で排便が行える方が4割以上もいる事に驚きました。
下剤服用有り(49.4%)、下剤服用無し(50.6%)、単独使用(70.4%)、種類併用(15.7%)。
排便の問題を抱えている方が8割にも及ぶのに対し、半数の方は下剤の使用なしで排便していました。
便秘気味で下剤を飲んでもなかなか出ない場合や薬が自分の体質に適していない可能性もあります。そのため、脊髄損傷者の方はどんな下剤を使っている事が多いのか確認してみてください。
便秘・排便を楽にする工夫
脊髄損傷者では便秘に悩む方も多いと思いますが、皆さんは便秘を解消する為にどんな工夫をされてますか?
ここからは慢性期の脊髄損傷者が行なっている便秘・排便を促すための工夫を見ていきましょう。
今回の研究では水分摂取や食物繊維など便の状態や腸の働きを改善させる行動が多かったようですね。
そして適度な運動が3番目に多く、排便には運動が効果的という認識が深まっているように感じました。
水分摂取は一般的にも便秘の解消に推奨されていますが、一方で尿量が増えてしまい尿失禁や排尿回数が増えてしまう問題もありますよね。
その場合は食物繊維の摂取や適度な運動を意識してみてください。
トレーニング・社会生活と排便コントロール
これまで多くの脊髄損傷者とトレーニングをしてきましたが、トレーニング中に便失禁を経験した事は多くありません。
それは慢性期の脊髄損傷者ではしっかりと排便をコントロールし、トレーニングに備えているからだと思います。
これはまさに生活の中で排便のコントールがしっかりと行えて、時間やタイミング、薬などでを工夫し習慣化できている結果です。
運動は腸の動きを活発化させたり、立つことで重力が加わり腸の動きを促すことも期待できる為、便が出にくい方は食生活以外にも運動を取り入れる事をお勧めします。
今回の研究では就労・就学者で下剤を使用している人が少なかったようです。
これは下剤によって便失禁の可能性が高くなる事や職場や学校では排便に時間を掛けられないなどの理由から実際に復職、復学が難しかったり、時間が制限されてしまうと言った背景があります。
このように排便のコントロールは社会生活に直結する為、排便を生活の軸にスケジュールを組んでいる方もいます。
しかし、ご自身の便の性質やタイミング、体に合う薬を見つけるまでにはある程度の時間がかかるでしょう。その間に便失禁を経験するという事は多く、慣れている人でもコントロールできない突然の便失禁はあるようです。
ですので、突然の便失禁に備えてオリジナルのアイテムを持ち歩いている為、外出時は自分に必要なアイテムを整えておくと良いでしょう。
例(おむつ、手袋、着替え、ウエットティッシュ、ゴミ袋など)
まとめ
- 脊髄損傷者の8割は排便に関する問題を抱えている
- 排便のタイミングは毎日が多く、時間は15分以内
- 半数の人は下剤を使用していない、その理由は職場や学校での便失禁への心配
- 排便を促す工夫では水分や食物繊維の摂取や適度な運動が多かった
今回は脊髄損傷者の排便に関するアンケート調査研究をもとに当事者が抱えている問題や工夫についてお伝えしました。
意外だった項目は、毎日排便している方が多く、排便時間が15分と短かった事、また排便の工夫として運動を取り入れている方が多かった事です。
便失禁をしてしまうと落ち込む事もあるでしょうが、少なからず皆さん経験があり、徐々に自分の体にあった方法を見つけ、食生活を見直すことでコントロールができるようになってきます。
また、入院中の方はタイミングや時間、曜日などを予め習慣化しておく事で、退院後もスムーズに生活に適応する事ができると思います。
参考文献
- 尾下美保子,脊髄損傷者の退院後の排便管理についての実態調査日,職災医誌,67:54-59,2019
- 赤居正美,脊髄損傷の排便マニュアル,リハビリテーションマニュアル29,2013