脂肪の中にはエネルギー消費を助け、痩せ脂肪として話題の「褐色(かっしょく)脂肪細胞」がある事をご存知でしょうか。
当記事では「褐色脂肪細胞の実態について」その効果と車いすユーザーとの関係性ついてお伝えしていきます。
目次
- 褐色脂肪細胞とは?
ー2通りの脂肪と生活習慣病の関係 - 代謝を助ける褐色脂肪細胞の力
ー室温の違いによるエネルギー消費量
ー食後のエネルギー消費量の違い
ーカプサイシンによるエネルギー消費
ー年齢別で見たBMI・体脂肪・内臓脂肪面積 - 褐色脂肪細胞活発化と効果
ー仕組みと活発化させるポイント
ー効果と有無 - 車いすユーザーの特徴と運動方法
ー代謝を低下させるポイント
ー車いすユーザーが実践できる方法 - まとめ
この記事は、理学療法士やアスレチックトレーナーとして障害者、車椅子ユーザーのリハビリ、トレーニング経験を多く持つ、障害者専門のパーソナルトレーナーが書いています。
褐色脂肪細胞とは?
痩せ脂肪としても注目されている褐色脂肪細胞について、まずは簡単にご説明していきます。
【白色脂肪】
皆さんが想像する一般的な脂肪のほとんどがこの「白色脂肪」であり、エネルギーを蓄え皮下脂肪や内臓脂肪として蓄積されます。
【茶色い脂肪(褐色脂肪細胞)】
代謝によって熱産生を行いエネルギー消費を助ける働きを持っている脂肪が今回のメインである「褐色脂肪細胞」になります。
上記の図の赤い部分、「肩、背骨、鎖骨周辺」に多く存在していると言われています。
【生活習慣病との関係】
研究によると褐色脂肪細胞が多い人と少ない人では、多い人のBMIや内臓脂肪面積が低値を示したというデータがある為、代謝を助け生活習慣病のリスクを軽減する効果があるようです。
何となく、褐色脂肪細胞についてわかってきたところで、本当に脂肪がエネルギー消費を助けてくれるのか見ていきましょう。
代謝を助ける褐色脂肪細胞の力
実際に褐色脂肪細胞はエネルギー消費に役立つのか?
研究結果をもとに見ていきたいと思います。
下の図はそれぞれ褐色脂肪細胞が多い人(緑)と少ない人(白)で比べた結果を示したものです。
- A(図1-1)は室温の違いによるエネルギー消費量の差
- B(図1-2)は食事によるエネルギー消費量の差
- 図2はカプサイシンによる代謝の差
- 図3は年齢によるBMI・体脂肪・内臓脂肪面積の違い
をそれぞれ示したものになります。
室温が27°Cと19°Cの場合をそれぞれ調べた結果
- 27°C(白グラフ)の場合は褐色脂肪細胞「あり、なしで大差がない」
- 19°C(緑グラフ)の寒冷化においては「両者に大きな差がある」
というデータが得られました。
すなわち、褐色脂肪細胞のあり、なしに関わらず寒冷条件のエネルギー消費が大きいといえるが、その効果は褐色脂肪細胞がある人の方がより大きいということです。
出典:褐色脂肪組織でのエネルギー 消費と食品成分による活性化
食事によるエネルギー消費量を見ると、褐色脂肪細胞がある (緑)群でエネルギー消費が大きい事がわかります。
これは多食応じて、エネルギーを溜めすぎないように褐色脂肪細胞が燃えてエネルギーを消費を大きくしていると考えられるそうです。
出典:褐色脂肪組織でのエネルギー 消費と食品成分による活性化
図2は褐色脂肪細胞を持っている人がカプサイシン(辛み)を摂取した時のエネルギー消費量の違いを示したものです。
*カプサイシンあり(緑)、プラセボ(白)
図の通り辛い刺激で交感神経が興奮し、褐色脂肪細胞が活発化し代謝が促されているようです。
これら3つの実験から、条件を整える事で確かに褐色脂肪細胞はエネルギー消費を促してくれることが分かります。
では次に褐色脂肪細胞と生活習慣病の関与について見ていきましょう。
出典:褐色脂肪組織でのエネルギー 消費と食品成分による活性化
- 図3-1:年齢の推移による「BMI」の変化
- 図3-2:年齢の推移による「体脂肪」の変化
- 図3-3:年齢の推移による「内臓脂肪面積」の変化
それぞれに共通する特徴として20代では大きなさはないが、30代以降から明らかに褐色脂肪細胞を持った群(緑)はいずれの図も低値を示している事がわかります。
研究では生活習慣病の影響が現れやすい60代、70代まで研究されていなかったのですが、これらの傾向から30代、40代と同様の変化を辿っていくと考えられます。
褐色脂肪細胞の活発化と効果
研究結果から、褐色脂肪細胞は代謝を促す効果があり「痩せ脂肪」と呼ばれているのも頷けますね。
それではここからは「活発化のポイント」と「実際の効果」についてお伝えしていきます。
- 辛さ
- 寒さ
- 運動
からくる「交感神経」の興奮が代謝を促すポイントとなっています。
図のように「アドレナリン」を出す刺激によって褐色脂肪細胞が燃えエネルギー代謝が促される仕組みです。
結局のところ褐色脂肪細胞の活発化はどれくらい効果があるのか?
そして、自分には多いのか?少ないのか?と言ったところが疑問だと思います。
【褐色脂肪細胞の効果】
研究によると1日でのエネルギー消費量の違いはわずか12kcalだが、10年で見ると43,800 kcalの(体脂肪量の約6kg)違いとなるそうです。
10年後の体重が6kg増加している事を考えるとかなり大きな差に感じませんか?
【自分には多い?少ない?】
PET検査と呼ばれるガンを見つける時に使われる方法しかなく、残念ながら簡単には調べることができない為、実際のところ自分には多いのか、少ないのか不明なんです。
ですが、褐色脂肪細胞が少ない人でも刺激が全く無駄ではなく、少なからず代謝を促す効果が期待できます。
ここまでを一度、まとめると。
- 痩せ細胞が多い人は代謝が良くエネルギー消費が大きい
- 辛さや寒さ運動による交感神経への刺激は代謝を助けてくれる
- 長期的な目線で食事や運動の習慣を変えていく事で、効果を発揮してくる
- 実際には検査が難しく有無はわかりにくいが、知らずに代謝を助けてくれている
褐色脂肪細胞によるエネルギー代謝は一日の中でというよりも、長年の積み重ねによって生活習慣病の原因である体脂肪や内臓脂肪に影響を及ぼすものになります。
その為、目標を決めて○○ kg痩せるというような方法とは違い、生活の中で食事や運動を少しづつ見直していく事が大切と言えます。
それでは、ここから今回の情報をどのように活かしたらいいか、車いすユーザーが生活の中で取り入れたい運動と食事についてお伝えしいきます。
車いすユーザーの特徴と運動方法
褐色脂肪細胞は活発化を促すだけでなく、効果や働きを低下させてしまっている原因も知っておく必要がある為、そのポイントと運動方法についてお伝えしていきます。
- 柔軟性の低下と姿勢
車いす姿勢では肩や鎖骨、背骨の動きが制限されやすい傾向にあります。
その為、動作が小さくなる事で運動の効果が減少してしまい、結果としてエネルギーを効率的に消費させる事ができていない可能性があるのです。 - 褐色脂肪細胞の働きを弱める原因
研究によると血糖値やBMIが高く、内蔵脂肪が多い人は褐色脂肪細胞の働きが弱っているというデーターがあります。
車いす生活では麻痺の影響や立つ、歩く機会が減る事で「筋肉量の減少と脂肪量の増加」が起こり、内臓脂肪やBMIが高くなりやすい為、働きが低下してしまっている可能性があるのです。
この車いす生活における2つのポイントから、柔軟性や筋力UP、食生活の見直しによって代謝を助けてれる褐色脂肪細胞の働きを弱めない事も大切になります。
それではこれらのポイントを意識した上で車いすでできる運動方法を見ていきましょう。
【肩甲骨や背骨の柔軟性UP】
褐色脂肪細胞は車いす生活で柔軟性が低下しやすい鎖骨や肩甲骨、背骨に多くあります。
その為、肩周りの硬さや姿勢を改善させる事で、動かせる範囲が広がり代謝をUPさせる事ができます。
方法はこちら→車椅子でできる肩・肩甲骨の運動方法
【運動で交感神経を活性化】
交感神経を刺激するにはゆったりとした運動より少し息切れするくらいの激しい運動(車椅子を漕ぐ、ダンベルトレーニングなど)がおすすめです。
方法はこちら→車椅子でできるトレーニング、ストレッチ紹介
【水泳】
水泳はハードルが高いかもしれませんが、活発化の条件をうまく満たしてくれ、寒冷刺激と運動によって効率的に褐色脂肪細胞が働いてくれる運動です。
【辛みだけでなく食事を見直す】
カプサイシンの効果は期待できそうですが毎日は摂取する事は大変なので、食物繊維の摂取や高カロリー食を控えるなど食生活を見直す事が重要です。
方法はこちら→最適な栄養バランスと食事管理
まとめ
褐色脂肪細胞は活発化する事で代謝を促し10年後、20年後の生活習慣病を予防してくれる一因である事がわかりました。
そして、車いすユーザーが効果を発揮するには「柔軟性の低下」と「脂肪の増加」が活動を低下させている可能性がある事を意識しながら、褐色脂肪細胞が多い肩や背骨周辺の運動と食生活の見直しがポイントとなります。
褐色脂肪細胞は近年ようやく人でもその存在が確認された為、研究が進み新たな発見があり次第、お伝えしていきたいと思います。