新型コロナウイルス(COVID-19)が全世界で猛威を奮っております。
ニュースでは感染者数の増加を日々耳にしますが、国内において脊髄損傷者が新型コロナウイルスに感染したという情報は未発表です。
しかしながら、今回イタリアの頸髄損傷者が新型コロナウイルスに感染し完治したという文献を見つけた為、その経過と注意点を簡単にまとめました。

また、今回の貴重な症例報告から学べる点と当事者ができるアクションについてもお伝えしていきます。

目次

・新型コロナウイルスに感染した患者情報
・感染が発覚するまでの経過
・発熱だけでも疑うべきコロナウイルス
・この情報の使い道と感染症例からの学び
・まとめ

この記事は、理学療法士やアスレチックトレーナーとして障害者、車椅子ユーザーのリハビリ、トレーニング経験を多く持つ、障害者専門のパーソナルトレーナーが書いています。

新型コロナウイルスに感染した患者情報

まずはイタリアで頸髄損傷者が新型コロナウイルスに感染したと報告されたこちらの文献を要約していきたいと思います。

 

コロナウイルスに感染した頸髄損傷者の情報

患者情報

  • 年齢:56歳
  • 性別:男性
  • 既往歴:なし
  • 受傷歴:20013年に銃で負傷、頸髄損傷(C4)AIS(A)
  • 経過:2014年以降は神経性の疼痛のための薬を服用し、2016年に褥瘡の手術を受け、2019年に彼は尿路感染で3度の入院経験があります。

 

感染が発覚するまでの経緯

彼が新型コロナウイルスに感染した事が発覚するまでには発熱から数日経過してからでした。
今回はその理由についてお伝えしていきます。

 

発熱後から新型コロナウイルス感染が発覚するまでの経緯

【2020年3月発熱】
彼は2020年3月の夜間に発熱を起こし、前触れはありませんでした。
発熱後、直ぐには病院へ行かずに様子を見ていましたが、発熱が続いた為、翌日(発熱後36時間経過)かかりつけ医を受診。この時、発熱以外の症状はなかったようです。

【尿路感染による発熱の疑い】
発熱の原因を尿路感染と疑い、抗生物質を飲んだが2日半後も症状の改善が全く認められず、38~39°Cの熱が続いた為、救急病院へ搬送され入院
入院後、尿・血液検査・胸部X線・腹部超音波検査が行われ、検査結果から発熱の原因は尿路感染症であると診断を受け、違う薬で治療が開始されました。

【続く発熱、ウイルス感染を疑う】
彼は2日間、救急病棟に入院した後、脊椎ユニットの個室に移りましたが、この時の彼の症状は発熱、軽度の呼吸困難を認め、咳、鼻水、喉の痛みなどは認められていませんでした。
その後も抗生物質による治療は続きましたが(発熱から6日間経過)、胸部X線の悪化と発熱が持続していたためウイルス性肺炎を強く疑い、感染症専門医への相談を要請しました。

【新型コロナウイルス発覚!発熱から10日後】
鼻の粘膜検査から新型コロナウイルスが検知されたため、抗ウイルス療法が即座に行われました
抗ウイルス療法が開始され2日後(症状が始まってから10日後)に発熱が止まり、その後退院されました。

 

今回報告されている新型コロナウイルス感染に至る経過で、脊髄損傷の彼は2019年に尿路感染で3度も入院している経緯がありました。
脊髄損傷者にとって尿路感染での発熱・入院はよくあることで、当事者の方の中にも同じような経験をされている方も少なくないはずです。
今回の発熱も尿路感染の可能性が高いだろうと判断されたのかもしれません。

発熱だけでも疑うべきコロナウイルス

今回のケースでは頸髄損傷者における新型コロナウイルスの感染症状と一般的な症状に重要な違いが潜んでいたようです。
ここからは感染発見までに10日間を要した原因と特徴についてお伝えしていきます。

 

頸髄損傷者と健常者の感染症状の重要な違い

新型コロナウイルスの2つの特徴である「発熱」と「咳」症状のうち咳症状がほとんど認められなかった事が、感染の発覚を遅らせた要因の一つであるとされています。
その理由は四肢麻痺によって呼吸筋が麻痺していたため、咳をする事ができなかった可能性があるとの見解でした。

また四肢麻痺患者は新型コロナウイルスに感染した場合、重篤化すると思われていましたたが、彼の場合は幸いにも発熱症状が強く、生命を脅かす程の重篤化は起きなかったそうです。

今回の報告から重要な点は呼吸筋の麻痺によって咳ができない患者がいる事を考慮し、例え感染が確認されていない地域であっても、発熱がある全ての脊髄損傷者に対して新型コロナウイルス感染を疑う必要性が非常に高いということでした。

この情報の使い道と感染症例からの学び

この貴重な症例報告を読んで感じた個人的な感想と、この情報を掴んだみなさんができる事をお伝えします。

 

感染症例が報告されたことで、できるアクション

報告経過から新型コロナウイルスの特徴である「咳」症状がなかった事を踏まえると、脊髄損傷者は発熱だけであっても新型コロナウイルスへの感染を強く疑う必要があると改めて感じました
特に呼吸筋が弱く普段から咳がしにくい方は注意が必要で、今回の症例では幸い重篤化しませんでしたが、呼吸筋が弱く咳ができないと異物を体外に吐き出せなかったり、肺炎を悪化させる原因になりますので、呼吸トレーニングが非常に大切となってきます。

【発熱が起きたらできるアクション】
現在の検査では熱、咳、肺炎画像など新型コロナウイルスの疑いがかなり強いか、濃厚接触している人とされ、発熱だけではPCR検査をする事が難しい場合もあるようです。
その為、この記事を読まれた方は「咳症状がなくても新型コロナウイルスに感染していた頸髄損傷者がイタリアで報告されています」と医師に伝えるだけでも、検査をしていただける可能性が高くなるかもしれませんので、是非この情報を有益に使ってください。

最後に頸髄損傷者の新型コロナウイルス感染に関する症例報告はこの文献が世界初であり、我々も日々、脊髄損傷者など体幹筋や呼吸筋が弱い方々と関わる身にとって、このような情報は非常に有益であると感じ、個人的な見解と共にお伝えさせていただきました。

まとめ

今回の症例報告から「咳症状がない」または「呼吸筋の麻痺から咳ができない」事を考慮した診断も必要であり、このことは脊髄損傷者と関わる医療従事者や介助者、当事者も含め留意しておく必要があります。

人類にとって新たなウイルスであるコロナウイルスはまだまだ情報が少なく、特に脊髄損傷者での感染報告はほとんど確認されていない為、診断する医師も経験が少ない状況です。
この状況を乗り切るには、一人一人が新たな情報を集め共有していく事が大切だと感じています。

参考文献

  1. COVID-19 tsunami: the first case of a spinal cord injury patient in Italy.Spinal Cord Ser Cases 2020 Apr 17;6(1):22. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32303672
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