脊髄損傷という怪我をしたけど一体どのような怪我なのか知りたい。またどのような理由で怪我をして、これから何に気をつければいいのか・・・。色々と調べても専門用語が多くてわかりにくい。もっと簡単にわかりやく説明してほしい。
このような疑問に答えていきます。
目次
・脊髄損傷とは?症状やレベルについて
・脊髄損傷の原因とは
・脊髄損傷の種類や特徴、歩ける可能性
・本当に危険!気をつけるべき二大合併症
・入院中にすべきこと、情報収集が鍵
この記事は、理学療法士やアスレチックトレーナーとして脊髄損傷のリハビリ、トレーニング経験を多く持つ、障害者専門のパーソナルトレーナーが書いています。
脊髄損傷とは?症状やレベルについて
脊髄損傷とは背骨の中を頭からお尻まで通っている一本の神経が病気や事故によって傷つき、傷ついた場所から下の体が動かしにくくなったり、感覚が鈍くなる怪我です。
ある日、突然に体の自由が奪われ感覚もなくなるため、自分の置かれている状況を理解するのに戸惑うことでしょう。
脊髄などの神経は傷つくと現代の医学では完全に治すことが難しい怪我です。しかし、近年では再生医療の発展に伴い将来的に治る怪我となる可能性が出てきています。
もう少し具体的に説明していきます。
背骨は上から頚椎(けいつい)7個、胸椎(きょうつい)12個、腰椎(ようつい)5個、仙椎(せんつい)、尾骨(びこつ)に別れており、このどの部分で脊髄が傷ついたかで症状を判断します。これをレベルとも言います。
脊髄の神経は脳の命令を手や足の筋肉に伝える役割があり、コップを掴む、スマホを操作するなどの動作を行っています。
例えば首の骨の6番が傷ついた場合、6番から下の神経が麻痺し脳から信号が途絶えてしまいます。(C6損傷などと言われています)
*Cとは頚椎を示すCervical vertebraeの頭文字です。
頚椎の6番が傷ついた場合、肘を伸ばす動きや握力が弱くなり、もちろん体幹や足の力も弱くなります。一方で肘を曲げる動きや肩をあげる動きは影響を受けていない為、問題なく行える事が多いです。
このように、どのレベルの神経が傷ついたかによって身体の動かせる部分が大きく左右されるのが脊髄損傷という怪我です。
脊髄損傷の原因とは
現在、日本には約10万人以上の脊髄損傷者がおり、年間5000人が新たに脊髄損傷を負っています。
その原因は2015年の調査によると1位:高所からの転落、2位:交通事故、3位:スポーツ事故と言われています。その他、転倒、病気、下敷き落下物が主な原因です。
脊髄は背骨で守られている為、高所からの転落や交通事故などの外部から強い衝撃を受けた場合に起こりやすく、ラグビーやアメフトなど接触の多いスポーツでも起こりやすいです。
また、脊髄腫瘍(脊髄の中にできた腫瘍により、脊髄や神経が圧迫される病気)、ヘルニアなどの身体の中から神経を直接圧迫する事でも起こります。
その他、生まれた時になる二分脊椎も脊髄損傷に分類されています。
近年では高齢化の影響から転倒などの軽度な衝撃でも脊髄が傷つき、脊髄損傷を負ってしまう傾向にあります。また、10代~20代では交通事故やスポーツでの怪我が多く、高齢者と若者では受傷原因が少し異なる特徴もあります。
脊髄損傷の種類や特徴、歩ける可能性
脊髄損傷は主に、完全損傷、不完全損傷に分けられ、これはASIAと呼ばれるアメリカ脊髄損傷協会の神経学的分類を元に診断されます。
- 完全損傷とは
傷ついた神経より下の運動機能や感覚がなくなります。また肛門周囲の感覚がなく、お尻の穴を自力で閉めることができない場合に完全損傷と診断されます。 - 不完全損傷とは
運動や感覚の麻痺はあるが、肛門周囲の感覚や、お尻の穴を自力で閉めることができる場合は不完全損傷と診断されます。また不完全損傷では脊髄の一部は損傷を免れることが多く、痙性(ケイセイ)と呼ばれる、自分の意思とは無関係の突発的なケイレン現象が見られます。寝た時に足が伸びたり、足首がカタカタと動いたりする現象です。
中心性脊髄損傷とは文字通り脊髄の中心部分が傷ついた状態を示します。
脊髄の中心には上半身の運動を担っている神経が集まっており、外側には下半身の運動を担っている神経が集まっています。その為、中心性脊髄損傷では下半身に比べ上半身の麻痺が強く現れる特徴があります。
原因は高齢者の転倒が多く、高齢化の影響もあり中心性脊髄損傷が増えてきています。
傷ついた脊髄が5%でも残されたいるなら、再び歩ける可能性があると言われています。
完全損傷や不完全損傷とは診断上の明記であり私の経験上、診断と実際の身体症状が合っていない場合も多くあります。これは、怪我からある程度の年数が経過したり、リハビリやトレーニングによって身体が変化する事で見られる現象です。
ですので、完全損傷だから「この先も手足が動く事はない」と決めつけず、運動を続ける事で不全損傷に変わったり、麻痺部分が徐々に動かせるようになる例も多く経験しています。
本当に危険!二大合併症に注意
脊髄損傷になると尿が自力で出しずらくなる「排尿機能」が障害されることが多く、これは車椅子や歩ける方にかかわらず見られる症状です。
尿を出す、溜める機能はお尻の周辺にある仙髄(せんずい)神経を伝って行われます。脊髄損傷は仙髄より上(首、胸、腰)が傷つくことが多い為、ほとんどの脊髄損傷者にでみられる症状と言っていいでしょう。
完全に自力で尿を出すことができない場合は「導尿」と言って管(カテーテル)を使って排尿したり、バルーンと呼ばれる尿を溜めるバックを常につける必要があります。
自力で排尿が可能な場合でも排尿を助ける筋肉がうまく働かず、勢いよく出せない、残尿感が残ることがあります。
このように上手く量が出せない事で起こりやすいのが「尿路感染」です。
尿路感染は排尿の際にカテーテルを介して菌が尿道や膀胱に入る事で起こります。また、オムツの中で長時間、尿を放置している事でも菌が繁殖し尿路感染の原因となります。
尿路感染の特徴としては「熱」が出る場合が多く、悪化すると腎臓まで感染が進み高熱が続く事もあります。熱が出たら風邪かなと思いがちですが、実は尿路感染を起こしている可能性が高いんです。
何度も尿路感染を経験している方はある程度、風邪か感染か判断ができる方もいますが、なるべく熱が出た時はすぐに病院へ行きましょう。
褥瘡とは(ジョクソウ)とは体の一部が長時間、圧迫される事でその部分の血流が途絶え、細胞が死んでしまった状態のことを言います。また一度、褥瘡になると非常に治りにくいと言った特徴があります。
褥瘡になりやすい部分はズバリ「お尻」!尾てい骨、坐骨に多いんです。
脊髄損傷になるとベットで寝ている、車椅子で座っている時間が長くなりますよね。ずっとお尻がベッドや車椅子のクッションに圧迫された状態となる為、お尻の褥瘡には最も注意が必要です。
褥瘡にならない為に脊髄損傷者が行なっている動作に除圧(お尻の圧を定期的に抜く動作)というテクニックがあります。ベテランの車椅子ユーザーは車椅子の横を手で押してお尻を上げたり、左右に体を傾ける動作を数十分おきに行いお尻への持続的な圧迫を最小限にしているんです。
褥瘡が悪化すると「仰向けで寝れない」「車椅子に乗れない」など日常生活に大きな支障を来す事もあります。また、状態が深刻な場合は手術が必要な事も・・・
褥瘡は本当に多くの脊髄損傷者で起こりやすい合併症のため、入院中から除圧のテクニックを習得する必要があるんです。
入院中にすべきこと、情報収集が鍵
入院中にすべきことはづばり「情報収集」です。脊髄損傷という怪我のことや自分の怪我のレベル、そして入院中にやるべきこと、退院後にやるべきこと色々な情報を手に入れることで、様々な可能性が広がります。
例えば入院は大まかに3つの段階に分けることができるため、まずは今ご自分が置かれている状況から把握しましょう。
- 急性期ー亜急性期(怪我の直後〜約1ヶ月)
自分の体に起こった事を理解し、状況の把握や情報を集めが大切になります。
事故などで背骨が骨折していた場合、その完治のために固定が必要となり、ベッドで寝ている時間がほとんでになる事も・・・ - 亜急性期ー回復期(約1ヶ月後〜約6ヶ月後)
この時期から、本格的なリハビリが開始されるでしょう。自宅や社会復帰に必要な日常の生活動作や職業訓練などを行います。回復が早い人では機能回復に特化した立つ、歩く練習も行われます。
近年ではロボットリハビリが盛んとなり、ロボットを使った歩行練習なども積極的に行われるようになってきています。 - 維持期(約6ヶ月後〜)
残念ながら脊髄損傷のリハビリ期間は6ヶ月と定められており、それ以降は退院した後に外来リハビリ、訪問リハビリなどを続けるしかありません。
最近では我々も行なっている自費でのトレーニング施設が増えてきていますので、もっと機能回復したい、運動したい方は選択肢の一つとして考えておく事もできます。
立つ、歩くリハビリも重要ですが、長期的な目線できる事を増やしていきましょう!
上記の通り入院から退院までの期間はとても少ないんです。そこで大切なのはたくさん情報を集め多くの選択肢を持っておく事です。
私はこれまで多くの脊髄損傷者のトレーニングやリハビリをしてきましたが、退院後も積極的に運動、トレーニングしている方は、麻痺している身体部分でも徐々に動かせるようになってきたたり、触る感覚、痛みの感覚などを感じられるよう変化してきた事を経験しています。
ですので、退院後を見据えた入院中の過ごし方、そして退院後をどう過ごすかで身体機能は大きく変化します。
退院後はリハビリができない、リハビリ難民が増え続けている現状
まとめ
脊髄損傷に関しての疑問が少しでも解決できたら幸いです。
最近ではiPS細胞などの再生医療が盛んに行われ、将来的に脊髄損傷は治る怪我になるかもしれません。
その時までに自分の身体とどう向き合って行くか、なるべく筋肉を落とさない、関節をさびさせない、合併症を作らないなど今の自分にできる事から少しづつはじめましょう。