汗がかけない脊髄損傷者に関する体温調節と夏の暑さ対策

汗がかけない脊髄損傷者は過酷な夏

夏に向かって気温が高く暑い日が多くなってきていますね。
こういった天候や気温も脊髄損傷者にとっては外出するかどうかを悩ませる原因になってしまいます。
特に頚髄損傷者では自律神経の障害もあるため体温調節がうまく出来ません。

暑い夏に長時間外出をしていると汗をかくことが出来ず、どんどん体温が上がってしまい、うつ熱状態になってしまうのです。
それを皆さん工夫して霧吹きで直接冷やしたりなど色々対処するのですが、これがまあ大変。
健常者が暑いと思っている以上に暑さに苦しんでいるのです。

また汗をかけない以外にも、不全損傷者などでは、部分的に多汗になってしまうこともあります。
ビックリするぐらいの汗をかいてしまう人もいらっしゃるので、そういった人を見かけた際にはぱっと見はわからないけど、実は自律神経にも何らかのダメージがあるんだなー。と思っていただけるといいのではないのでしょうか。

以前、この脊髄損傷者の体温調節がどこまで変化しうるのかが気になって論文を読み漁っていた時にこんな記事に出会いました。

 

パラアスリートの暑熱順化に関しての研究

Preparation of Paralympic Athletes; Environmental Concerns and Heat Acclimation

Mike J. Price

パラリンピックアスリートの準備:環境因子と暑熱順化

とでも訳しましょうか。こういった研究はほとんどなされていないのでとても貴重です。

この論文の項で

HEAT ACCLIMATION STUDIES IN PERSONS WITH SCI(脊髄損傷者に対しての暑熱順化の研究) というものがあり、ここでは二つの研究が紹介されています。

始めに記しておきますが、このようなパラアスリート、しかもトップのSCIのアスリートに限った研究はとても貴重で、そもそも被験者数はかなり少ないものになっています。

なのでこの論文にも書いてありますが、これが結論というよりも現在はここまで研究がされていて、今後の研究の参考になればいいなーといった具合であるようです。

この研究では、パラアスリート狙撃手 (n=5) 四肢麻痺(C4/5)1人, 対麻痺(T9/10)2人, spina bifida(二分脊椎)とpolio(ポリオ: アフリカ、中東で多い病気です。)に、7日間のHA(heat acclimation)プロトコル(60分暑さに慣れさせ、20分アッパーバイクか狙撃練習を行わせるという研究)を行いました。
その結果1日目の直腸温度と比較すると7日目では直腸温度に減少がみられたと報告されているそうです。

暑い環境での深部温度が徐々に下がってくればその環境に慣れてきたという事ですね。
しかし誰がとも明記されてないし、まず頚損でないことは間違いなさそうですよねー。

一方、別のリサーチでは頚損5人(C5-C7)、胸腰損5人(T7-L1)で比較したとき直腸温度の変化は見られなかったと報告されています。
しかしながらこの研究では直腸温度に変化が見られなかった四肢麻痺でも熱射の感度はday1と比較してday7の方が減少していることも明らかになった報告されています。
経験的にはこっちの方がしっくりくる感じもします。

とはいってもどちらの研究に関してもこの論文上では被験者のプロファイルも載せてくれてないし、いまいち不親切なところがあるなーって印象ですかね。

 

結果だけをみればそれだけの事なんだけど、
脊髄損傷後では損傷部以下での発汗能力と皮膚の血流量が減少またはなくなってしまうことが報告されており、全身で発汗できないと発汗可能な場所でそれを補わなくてはならないので、局所発汗量が増えてしまうというのはどうしても避けられないことであります。

その為、暑熱順化するに伴って部分的に汗腺の活動が高まり局所発汗率が高まるとのこと。

また高位損傷の場合は発汗できないので深部温度に影響を及ぼすほどの発汗率の増加は期待できない為、
いかに発汗できるかが暑熱順化で大事な要素になってくるだろうと結論付けています。

自然に汗をかける方は外に出て暑さに慣らすことは可能であるかもしれないが、頚髄損傷などの高位損傷で汗をかく事のできない方は、飲み物や衣服などで工夫をしながら体を冷やして対応していくのが今のところベストって感じになりそうですね。

体温調節できない脊髄損傷者にオススメの衣類

そんな中でオススメの衣類があります。
アディダス社のクライマチルCLIMACHILLシリーズです。

 

これは特殊なアイスドットと言うものが付いています。
アイスドットとは、

肌に触れた瞬間、冷んやりとした感覚が実感できるアルミニウム製の「アイスドット」を搭載

で、首回りが常に冷んやりした状態を保ってくれます。

値段もそこまで高くないですし、衣類から涼しい素材にするのはとても効果的なので是非参考にしてみて下さい!

みなさん無理をしない範囲で夏を楽しんでくださいね!!

参考文献

1. Price, Mike J. “Preparation of Paralympic Athletes; Environmental Concerns and Heat Acclimation.” Frontiers in Physiology 6 (2015): 415. PMC. Web. 1 Aug. 2017.