脊髄損傷者にとって最適な栄養バランスと食事管理

みなさんこんにちは。
今回のユニバーサルトレーニングセンターの記事は脊髄損傷者と栄養管理に関してです。
今まで脊髄損傷者は健常者と比較し大きく筋肉量、そして脂肪量が変わっているというお話をしてきました。
その記事に関してはこちらからご覧下さい!
身体の筋肉量、脂肪量といった体組成が健常者とは大きく異なる脊髄損傷者にとって、
どういった栄養管理が最適になるのかについてみていきましょう。

栄養管理の基礎

まずは基本的な栄養学からスタートします。
健康的な身体では
水分57-62%、タンパク質13-16%、脂質16-25%、ミネラル5-6%、あと1%以下の炭水化物
から成り立っていると言われています。
水分量が約6割程度占めている事になります。

そして、我々人間はエネルギーを与えてくれる3大栄養素を摂取する事でエネルギーを得ています。

タンパク質(4kcal / gm)、脂肪(9kcal / gm)、炭水化物(4kcal / gm)

といった具合に各栄養素からそれぞれ、エネルギーを摂取することができます。
厚生労働省の報告の「日本人の食事摂取基準(2015 年版)の概要」1では、
身体活動量が普通程度の成人男性では約2,650 kcal、女性では2,000kcalを一日あたり必要であると報告されています。

そして、タンパク質:13~20%、脂質:20~30%、炭水化物:50~65%
というようにバランスよく栄養を摂取することが推奨されています。

例えば、成人女性で1日合計2,000kcal摂取したとしましょう。
極端ではありますが、計算しやすい数値で表記しますね。

タンパク質20%、脂質20%、炭水化物60%摂取したとして
タンパク質400kcal、脂質400kcal、炭水化物1200kcal程度取ることになり、
実際の摂取量はタンパク質400/4=100g、脂質400/9=44.5g、炭水化物1200/4=300g
といった具合になるのです。

また、その3大栄養素以外にも
ミネラル、ビタミンは微量栄養素と言われ、先ほどの3大栄養素と比較すると少量ではありますが、きちんと摂取する必要があります。

あと、忘れてはいけないのは水分ですね。
水分はエネルギーを供給しませんが、身体の半分以上が水分で出来ていますので、これも身体を作る上で重要な要素になります。

なぜ脊髄損傷者はより健康的な食事が必要なのか?

さて、ここからはなぜ脊髄損傷者は健常者以上に、適切な量の栄養素を摂取し健康的な食事をしなければならないかの話になりますが、
まずは第一に、適切な栄養素は健康の維持・向上に役立ってくれます
これは健常者でも一緒ですね。

逆に不健康な食事とはどのような状況かと言うと、

  1. 栄養素が不足しており、栄養失調になってしまう状態
  2. 過剰摂取から栄養過剰となり、肥満、健康状態不良になってしまう状態

の2点になります。

特に慢性期脊髄損傷者では2の栄養過剰が起こりやすく、
メタボリックシンドロームは二分脊椎の成人32.4%、そして脊髄損傷者の55%も占めると言われています。2

50年間脊髄損傷者の生命予後を追った研究によると、
全体の死因の約26%がメタボリックシンドロームの延長線上にある心血管疾患からで
受傷機転から一年生き延びた脊髄損傷者の40年後の生存率は
なんと対麻痺で62%、四肢麻痺で47%と報告されています。3

そして、メタボリックシンドロームを予防するには適切な体重管理をする必要があります。

そこで一つの目安になるのがBMIボティマス指数ですね!

脊髄損傷者の推奨されるBMIは22kg/m2

とされるので、22kg/m2以上は過体重と考えていた方がいいでしょう。

一方、女性に特に起こりやすい栄養失調に関してもスクリーニングがありますので、
こちらを参考にしていただけたらと思います。

    1. 3ヶ月連続での体重減少:痩身、6kg以上の意図しない体重減少
    2. 摂食、消化能力:食物を経口的に摂取することができない、嚥下障害、重度の嘔吐および/または下痢、吸収不良
    3. 食欲:4食以上連続で食べることが出来ない
    4. ストレス要因:大手術、慢性疾患、重度感染、敗血症、癌、15%以上の火傷など
    5. 体調:糖尿病、心不全など
    6. 精神状態: 昏睡、混乱、鬱病、精神病など2

極端なものばかりと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、
スクリーニングとしてはこのボーダーは非常に重要な物となります。

栄養過剰も栄養不足もどちらも身体にはいい影響を与えませんので、
適性体重を維持して、バランスよく食事をする必要がありますね!

またバランスのいい食事をすることで理想的な体重で入れるだけではなく、
脊髄損傷者にとって重要な皮膚と排便にもいい影響を与えてくれます。

皮膚を丈夫にし、褥瘡を作らない為に

脊髄損傷で褥瘡にお悩みの方はとても多いです。
ちょっとした傷だから大丈夫と言う方でも、そこから大きな傷となって、半年、1年と入院された方もざらにいらっしゃいます。

そこでまずは皮膚を丈夫にし、褥瘡にならない身体作り、
そしてなったとしてもできるだけすぐに治るような身体にしたいですよね。
もちろん定期的な除圧は必須ですが、ここでは栄養面からのお話です。

成人だと体重1kgあたり1g摂取する必要があると言われていますが、
脊髄損傷者は定期的に運動をしている人と同じくらいタンパク質を摂取した方がいいと言われています。

その為、タンパク質を1.5g/ kgの摂取が勧められています。2
体重が50kgだとしたら75gのタンパク質ですね。

また、2.0g/ kgの摂取だと体内のタンパク質の合成を高められるとさせれていますので、
積極的にタンパク質を摂取することはオススメです!

そして、もちろんそのタンパク質を有効に使うためには運動も大事になります。

排便をスッキリさせ、時間をかけない為に

脊髄損傷者にとって栄養摂取のもう一つ重要な要素は便秘の予防です!
そこで重要なのは食物繊維になります。

食物繊維には水に溶ける水溶性食物繊維と不溶性食物繊維がありますが、不溶性に多く含まれるセルロースは便の重量と大きさを増して便を柔らかくしてくれます。

  • 不溶性繊維:全粒小麦粉、ナッツ、野菜など→ 蠕動運動を刺激する
  • 水溶性繊維:こんにゃく、海藻、豆、果物など→ 腸から食物の移動を遅らせ糖の吸収を遅くする

糖分の吸収を遅らさせてくれるという事は、肥満防止やコレステロールの上昇も抑えてくれる事にもなります。

そして1日に必要な食物繊維摂取量は15gm以上とされていますので、2
ぜひみなさんも積極的に食物繊維の摂取を心がけてください。

また同時に水分の摂取も重要ですね!
適切な水分の摂取量:(体重×40)+ 500ml

と言われているので、体重が50キロだったら2500mlにもなります。
結構多いかもと思うかもしれませんが、食事からの水分摂取も含まれます。
便秘気味の方は意識して水分を摂取するのも重要でしょう。

逆に軟便の方は辛いものの摂取には注意してくださいね!

まとめ

今回は色々内容が多かった思いますが、今回のポイントをまとめると

  • しっかりとした栄養バランスを心がける

  • BMIは22kg/m2を目標に

  • タンパク質を1日1.5g/kg

  • 食物繊維も1日15gm 以上

になります。
以上の4点に注意して、日々の食事を見直す事でより健康的な身体作りが出来ますのでぜひ参考にしてみてください!!

参考文献
  1. 厚生労働省の報告の「日本人の食事摂取基準(2015 年版)の概要」
  2. Nutritional Management after SCI. (n.d.). Retrieved June 5, 2018, from http://www.elearnsci.org/
  3. Middleton, J W, et al. “Life Expectancy after Spinal Cord Injury: a 50-Year Study.” Spinal Cord, vol. 50, no. 11, 2012, pp. 803–811., doi:10.1038/sc.2012.55.